井上和馬がまだ困惑した表情を浮かべている中、雨宮由衣は既に口を開いていた。「私を案内して」
雨宮由衣は言い終わると立ち上がり、出口へ向かって歩き始めた。
途中で、ベッドの上の男性が気になって振り返り、「まだ早いから、もう少し休んでいて」と見つめた。
庄司輝弥の声には、かすかな笑みが混じっていた。「うん」
井上和馬はぼんやりとその場に立ち尽くし、しばらくしてようやく我に返り、急いで雨宮由衣の後を追った。
後ろで、男は去っていく少女の背中を見つめ、その瞳には本人さえ気付いていない優しさが宿っていた……
雨宮由衣が去って間もなく、非常に軽い肉球が床を踏む音が聞こえてきた。
銀白色の影が音もなく男のベッドの前まで歩み寄り、おとなしく男のベッドの横の絨毯の上に横たわった。
庄司輝弥はベッドの傍らの白虎を見つめ、瞳の優しさが徐々に冷たさに変わっていった。「スルート、もし……私にできなかったら……」
庄司輝弥は目を伏せ、胸に手を当てて軽く咳き込みながら、白虎の毛並みを撫でた。「もし、いつか私がいなくなったら、彼女のことを頼む」
スルートは少し苛立たしげに尾を振り、低く威嚇するような唸り声を上げ、不満と拒絶の意を示した……
……
階下。
秋山若葉と中年の男性が確かにその場で待っており、二人とも非常に焦った様子だった。
階上から足音が聞こえ、二人は振り返って階上を見た。
しかし、降りてきたのは庄司輝弥ではなく、雨宮由衣で、その後ろには井上和馬が続いていた。
雨宮由衣はまっすぐにリビングのソファに座り、二人に「お座りください」と声をかけた。
支社の責任者である椎名勉は一瞬戸惑い、秋山若葉と目を合わせた後、思わず「九様は?」と尋ねた。
雨宮由衣:「何かありましたら、私に直接お話しください」
秋山若葉はそれを聞いて、瞳が微かに揺れた。
椎名勉は眉をひそめ、「深都支社からの緊急の書類が数件あり、九様の直接の確認とサインが必要なんです」と言った。
雨宮由衣は頷いて、「分かりました。私にお渡しください」
椎名勉の表情は急に険しくなり、厳しい口調で「これらの契約書は非常に重要で、すべて機密文書です。他の人の手を経由することは絶対にできず、九様の手に直接渡さなければなりません」と言った。