第533話 あなたが私の視界にいれば

後ろの小さな護衛は、千メートルも走らないうちに甘えてきた雨宮由衣を見て、完全に呆気にとられていた。

十一どころか、庄司輝弥の後ろにいる白虎までもが目を上げ、軽蔑の表情を浮かべているようだった。

雨宮由衣も千メートルしか走っていないのに投げ出すのは適切ではないと分かっていた。実は先ほどは単に甘えただけで、慌てて庄司輝弥に「いいえ、私はまだ走り続けます。ゆっくり走ればいいだけですから！」と言った。

庄司輝弥は眉をひそめた。

雨宮由衣は瞳を潤ませながら懇願した。「ねぇ、あなたも車に乗ってよ！そうすれば、あなたを見ながら走る方が頑張れるの！」

庄司輝弥は真剣な表情で「本当に大丈夫か？」と尋ねた。

「大丈夫よ、まだ頑張れるわ。さっきはなぜかあなたを見たら我慢できなくなっちゃって……」

少女の言葉を聞いて、庄司輝弥の表情が明らかに柔らかくなった。

そして、最終的に庄司輝弥も車に乗り、車はゆっくりと前を走り、雨宮由衣は後ろをついて走った。

小さな護衛は人生の意味を疑うような状態で、あの夜の無敵の魔女王と、今目の前で千メートルも走らないうちに弱音を吐く甘えん坊を同一人物として結びつけることができなかった。

「あの、隊長、本当に同じ人なんですか？」小さな護衛は思わず声を潜めて十一に愚痴った。

十一が口を開こうとした時、なぜか視線が徐々に変化した。「車の速度を落としたのか？」

小さな護衛は首を振った。「いいえ、どうしたんですか？」

十一は考え込むように言った。「速度を落としていないなら、それは……由衣様の速度が上がっているということだ……」

運転中の小さな護衛は一瞬驚き、バックミラーで確認した。「あれ、本当だ！もう車を追い越してる……あ……もう追い越した……」

話している間に、雨宮由衣はすでに車の前まで走っていた。

雨宮由衣は走りながら車内の人々に叫んだ。「あれ？スピード落とさないでよ！当主様を私の視界の前に置いておかないと、走れなくなっちゃう！」

「あ……はい！すぐに！」小さな護衛は顔を赤らめながら、急いでスピードを上げた。

というか、彼らが速度を落としたわけではないのだが。

おかしい……どうしてどんどん速くなっているんだ？