夜は金蘭賞の授賞式に行くため、トレーニングを終えた雨宮由衣は、トレーニングウェアを脱いで、直接男装に着替えた。
主寝室で、庄司輝弥は鍼治療を終えたところで、露わな上半身には無数の黒ずんだ針跡が見えた。
彼女は針が苦手で、庄司輝弥が鍼治療を受けるときはいつも立ち会えなかった。
「痛くない?」雨宮由衣は近寄って尋ねた。
庄司輝弥はシャツを着ながら、平然と答えた。「大丈夫だ」
雨宮由衣は眉をひそめ、「じゃあ...次回は私も一緒に付き添おうか?」
庄司輝弥は彼女を一瞥し、「必要ない。お前が気を失ったら、今度は俺がお前の面倒を見なければならなくなる」
「……」雨宮由衣は言葉を失った。本当に空気が読めない人だ。
「あ、そうだ……」雨宮由衣は何かを思い出したように、急に真剣な表情になった。「庄司輝弥、とても重要なことを話したいの」
庄司輝弥はシャツのボタンを留めながら、「何だ?」と尋ねた。
雨宮由衣は庄司輝弥がボタンを留める動作と、まだ露出している肌を見つめているうちに、突然言葉に詰まった。「えっと……」
庄司輝弥は疑わしげな視線を投げかけ、彼女の言葉の続きを待った。
雨宮由衣は仕方なく顔を手で覆い、手を振りながら急かした。「あのね、先に服のボタンを留めてから話すわ。何を言おうとしていたか忘れちゃった……」
男は一瞬驚いた様子を見せ、その後胸の中から低い笑い声が漏れた。
しばらくして、全てのボタンを留め終えると、「さあ、何を言いたかった?」と尋ねた。
庄司輝弥が服をきちんと着るのを見て、雨宮由衣はようやく満足し、自分が何を言おうとしていたのかも思い出した。
雨宮由衣は言葉を慎重に選びながら、真剣な表情で言った。「庄司輝弥、私、気づいたんだけど、もしかしたら私、武道の天才かもしれない!」
庄司輝弥:「……」
庄司輝弥の反応がないのを見て、雨宮由衣は焦った。「どうして?信じられないの?今日、十一と練習場に行って、十一が格闘技を教えてくれたんだけど、結果的に私が十一を倒しちゃったの!十一は私に弟子入りしたいって言ってるのよ!」
「引き受けたのか?」庄司輝弥は尋ね、深い瞳の奥で暗い光が揺れた。