第542章 授賞式

おそらく庄司輝弥に心の内を打ち明けたからか、雨宮由衣はだいぶ落ち着きを取り戻していた。

それに、来るものは拒まずという言葉もある。転生という出来事さえ起こり得るのだから、不可能なことなどないのかもしれない。

夜8時、第46回金蘭賞授賞式が正式に開幕した。

年に一度の芸能界の祭典として、会場には華やかなスターたちが集まり、メディアも勢揃い。レッドカーペットを歩くのは、すべて大物スターや新進気鋭の若手たちだった。

今夜、橋本羽は新津香織とともにレッドカーペットを歩くことになっていた。

二人は長年の知り合いで、芸能界では姉弟と呼び合っており、噂になることもなかった。

イケメンと美女の組み合わせは常に人目を引くもので、二人が登場するやいなや、無数のカメラのシャッター音が鳴り響いた。

司会者は話題性抜群の新津香織を見るなり、目を輝かせ、用意していた質問を急いで投げかけた。「香織さん、今回の『静かな子』の興行収入が既に6億円を突破したそうで、おめでとうございます!ただ、ネット上ではこの作品の受賞については、あまり期待されていないようですね。商業主義的な作品だと言われ、あなたの演技についても批判的な意見が多いようですが、今夜の主演女優賞について、自信はおありですか?」

司会者の言葉には皮肉が込められており、明らかに新津香織を挑発して、話題を作ろうとしているようだった。

しかも、この話題は新津香織の弱点でもあった。

案の定、気の強い新津香織は目を細め、すぐにも反論しようとした。

その時、傍らにいた橋本羽は事態を察知し、急いで咳払いをして、新津香織が話す前に口を開いた。「はは、その質問については来る前に香織姉に聞いてみたんですよ。香織姉は今夜は実力のある先輩方が多いので、無理は言わないと。自分のできることをしっかりやって、あとは縁に任せると言っていました!」

橋本羽は言い終わるや否や、司会者に発言の機会を与えず、新津香織の手を引いて立ち去った。

新津香織は怒りの表情でその司会者を見つめ、今回は運が良かったな、という表情を浮かべていた。

少し離れた場所で、雨宮由衣はその光景を見ながら、思わず額に手を当てた。新津香織が業界でこれほど叩かれているのは、彼女の気性と無関係ではないだろう。

そのとき、会場からさらに大きな歓声が上がった。