第35章 人質になってあげる

「人質は私にしなさい。小娘を脅すなんて、大したことないだろう」

林逸は立ち上がり、目の前のハゲに冷ややかに言った。

楚夢瑤は自分を押さえつけたこの男を信じられない思いで見つめた。

こんな時に、自分のために立ち上がってくれるなんて？

死ぬのが怖くないのだろうか？

確かに、楚夢瑤は分かっていた。林逸は父親から多額のお金を受け取っていたが、いくらお金があっても命には代えられないはずだ。

誰も自分の命を軽んじる者はいない。楚夢瑤も、林逸が今立ち上がったのは単なる「金のために働く」というだけではないと分かっていた。

一瞬、楚夢瑤は林逸がそれほど憎たらしくなくなったような気がした。少なくとも、彼は天地を支える男らしい男だった。

楚夢瑤は自問した。鍾品亮ならこんな時、きっと立ち上がらないだろう。むしろ自分より怖がって、頭を低く垂れているかもしれない……

ん？なぜ自分は林逸と鍾品亮を比べているのだろう？

楚夢瑤はこんな非現実的な考えを振り払った。今はそんな取り留めのないことを考えている場合ではない。

「くそっ！」

ハゲは予想外の展開に驚いた。人質になることを皆が避けようとしているのに、この男は自ら進んで来るなんて？頭がおかしいのか？

「お前誰だ？呼んでないだろう？」

ハゲは眉をひそめ、林逸を睨みつけた。「死にたくなければ、そこで大人しくしてろ！」

「人質が必要なんだろう？誰でも同じじゃないか？」

林逸は肩をすくめた。「安心しろ、大人しくするから！」

「てめえ、この野郎！」

ハゲは怒り心頭に達した。こいつは自分の邪魔をしに来たのか？怒りが込み上げ、銃を構えて林逸に向けて発砲した。

林逸の現在の修行レベルでは、このような至近距離からの銃撃でも傷つくことはなかった！

《玄黃竜術》を修練してから、林逸の反応能力は異常に鋭くなっていた。少し体を傾けるだけで、ハゲの弾丸を避けることができた。

しかし、林逸が体を傾けた瞬間、彼の心に衝撃が走った！

林逸の後ろには少女がいて、ハゲの弾丸は上から下への斜め方向に飛んできていた！

もし林逸が避けたら、弾丸は後ろの少女に当たることになる。そうなれば、少女は死なないまでも重傷を負うことになる！

林逸は歯を食いしばり、再び体を戻して弾丸を受けた！