第87章 お金を払ってないぞ

林逸は幼い頃から自分の母親が誰なのか知らなかったが、この男が自分の母親を侮辱するなんて、林逸は当然許すわけにはいかなかった。

もともと林逸は孤児であることを気にしていたのに、この野郎が自分の母親のことを持ち出すとは!

「パン!」

林逸は横面デブの顔に平手打ちを食らわせ、そのまま吹き飛ばした。

林逸の凄まじい力で、横面デブは体が大きいにもかかわらず、コマのように地面で数回転し、そのまま地面に突っ伏した。

左頬には五本指山がくっきりと残り、もともと肉付きの良かった左頬が更に腫れ上がっていた。

「誰の母親を侮辱するんだ?」

林逸は地面で悲鳴を上げている横面デブを冷たく見下ろした。

「くそっ、お前誰だ?俺に手を出すとは?」

鄒若明は林逸の姿がよく見えなかった。今、林逸は彼に背を向けていた。

林逸が一発の平手打ちで横面デブを吹き飛ばしたのは恐ろしかったが、鄒若明はあまり気にしなかった。結局、横面デブが油断している時に攻撃したのだと思ったからだ。

鄒若明は無意識のうちに来た人も鍾品亮の部下だと思い込み、手を伸ばして林逸を押しのけようとした。

「お前の顔、治ったのか?」

林逸は振り返って鄒若明を見た。

「り...林逸?」

鄒若明はようやく目の前の男が誰なのか分かった!

そして、なぜ横面デブを一発で吹き飛ばせたのかも理解した!

「聞いているんだ、顔は治ったのか?」

林逸は鄒若明を見つめた。

「は...はい...」

鄒若明は急に怯えだした!

この林逸というやつは完全な狂人さんで、黒豹兄さえも泣き叫ぶほど殴ったんだ。自分なんかが相手になるわけがない。

そして林逸が聞いているのは、あの日バスケットボールで殴られた顔のことだった。

「そうか」

林逸は頷くと、突然手を伸ばして鄒若明の顔を平手打ちした。すぐに鼻血が噴き出し、顔の半分が腫れ上がった!

しかし今回は以前のように吹き飛ばすことはなかった。「また壊れたな。さっさと失せろ」

鄒若明は顔を押さえながら、心の中で悔しさを感じていた!

なんてことだ、ただの女遊びなのに、こんな恐ろしい奴に出くわすなんて。しかも自分は彼を挑発してないはずなのに?

横面デブが「お前の母ちゃんを」と言っただけなのに、それも林逸に向かって言ったわけじゃないのに。今時、自分から罵られに来る奴がいるのか?