滕青山は足先で地面を蹴り、素早く横に跳び、容易にドルゴトロフとの距離を広げた。
「臆病者め、逃げるなよ」ドルゴトロフは少し焦りを見せた。
滕青山は一跳びで屋根に上がった。先ほどの短い交戦で、拳そのものには大きな傷はなかった。鉄砂掌の秘法で鍛えられた両手は鋼鉄のような硬さを持ち、內勁と合わせれば、あの金属の拳具と衝突しても問題なかった。本当の傷は上腕部にあった。
滕青山は右上腕を一瞥すると、目立たない血の跡が染み出ていた。
腕の内部の激痛を感じながら、滕青山は不安を覚えた。「このモンスター、体が強すぎる。私の右腕は先ほど孫澤の銃弾を受けて、内部の筋肉が既に傷ついている。今はさらに傷が悪化した。力の入れ方にも大きな影響が出て、実力は五割しか残っていない」
「このモンスターには、飛刀は効かない」滕青山は心の中で考えを巡らせた。
破壊者のドルゴトロフは嘲笑いながら言った。「滕青山、怖くなったなら、逃げてもいいぞ」
これはドルゴトロフが気前よく見せているわけではなく、理由があった——
速度では、彼は滕青山に及ばなかった。
滕青山が逃げようとすれば、彼には止められなかった。
しかし、純粋な実力では、ドルゴトロフは滕青山を少しも恐れていなかった。
滕青山には飛刀の絶技があるものの、暗然一刀という技は、飛刀が砕け散る突然性と方向の不確定性という利点がある一方で、欠点もあった。飛刀が砕け散ることで勁力が分散し、破片の威力はそれほど強くないのだ!
顔の脆弱な部分に当たらない限り、このロシアの巨漢には効果がない。破壊者ドルゴトロフは体が強靭で、特製の戦闘服も着ている。暗然一刀に対する備えもあり、決定的な瞬間には、手で顔を覆うだけで十分だった。
二人の近接戦に関しては……
滕青山は形意の強者で、宗師境界まであと一歩のところまで来ていた。
しかし、このロシアの巨漢も恐ろしい存在だった。
ドルゴトロフは生まれながらにして無限の力を持ち、闇市拳壇を制覇したこともあり、体は鋼鉄のように強く、さらに古代ヨガ術も修めており、剛柔併せ持っていた。彼の最強の武器は、中國で偶然手に入れた関節技の秘傳書を修得したことだった。これによってドルゴトロフは、近接戦で最も恐ろしい機械となり、破壊者の名を得て、暗黒世界のSランク殺し屋の列に名を連ねることとなった。
「怖い?」
滕青山の戦意が湧き上がった。「笑わせる!」
妻を失って以来、武道は滕青山の唯一の追求となっていた。今や宗師境界まであと一歩だが、その一歩が天塹のように感じられた。越えるのは極めて困難だ。しかし、生死を賭けた戦いの中でこそ、悟りを開き、自己を超越して新たな境地に達する可能性があった。
好敵手との出会いは、求めても得られないものだ。
後顧の憂いもない今、滕青山がこの絶好の機会を逃すはずがなかった。
「逃げないとはいい度胸だ。申級の奴の供養でもしてやろう」ドルゴトロフは雷のような勢いで五歩連続で踏み込み、地面を震わせて裂かせた後、一気に跳び上がった。
「よく来た」
滕青山は手を振って飛刀を放った。
「ポン!」用心していたドルゴトロフは、団扇のような大きな手を伸ばして、容易くその飛刀を防ぎ、飛刀を砕いた。
一本の飛刀を防いだ直後、ドルゴトロフはまだ空中にいた。滕青山は高所から見下ろすように、一気に突進し、前に向かって突き進む勢いで、左手を眉の前で翻し捻り、右手は砲弾のように打ち出し、直接ドルゴトロフの頭部を狙った。
「ほう?」ドルゴトロフは冷静さを失わず、その巨大な拳は鉄槌のように、滕青山の拳に向かって打ち下ろした。
「ドン!」「ドン!」……
滕青山の左拳、右拳が狂ったように交差し、一撃また一撃と、目で追えないほどの速さで、連続した拳影だけが見えた。上方に跳んでいたドルゴトロフを強制的に地面に打ち落とした。
炮拳は火のように、流星のように速かった。
ドルゴトロフは着地するや否や猛然と後退した。
「こいつの体は恐ろしいほど強い」滕青山は心の中で驚いた。先ほど相手に打ち込んだ感触は、綿を被せた鋼鉄を打つようだった。「体が鋼鉄のようで、さらに古代ヨガ術も修めている。重傷を負わせるのも難しい」
滕青山は心の中で驚いていたが、動作には一瞬の躊躇もなく、優勢を得た瞬間に即座に攻撃を続けた。
「フッ、ハァ~」ドルゴトロフの胸が膨らんで凹み、全身から気迫が高まり、北極熊のように咆哮しながら圧迫してきた。その狂暴な拳は、砲弾のように次々と打ち出された。
バン!
滕青山の全身が限界まで引き絞られた大弓のようになり、背骨まで震えながら、左拳を放った。
崩拳は矢のように、船が波を切り裂くような勢いで放たれた!
後退しても崩拳、捻っても崩拳、順足でも崩拳。
滕青山は一匹の龍のように、ドルゴトロフの周りを巧みに動き、相手の重拳を避けながら、同時に強烈な一撃を与えた。
「プッ」ドルゴトロフは思わず口角から血を吐き、目に冷光を宿した。「このオオカミめ、內家拳法はなかなか強いな。俺に傷を負わせるとは。もう一つの手しかないな」ドルゴトロフは関節技を使わなければ、今日は勝利できないと気付いた。
「このモンスター、少なくとも八発の崩拳を受けたのに、軽傷で済んでいる」滕青山も心の中で驚いていた。もし自分が八発の崩拳を受けていたら、とっくに重傷で動けなくなっているだろう。
「シュッ——」
ドルゴトロフの指が、滕青山の左手首を掴んだ。
「ハハハ~~」ドルゴトロフはその勢いを借り、滕青山を強く引っ張りながら、習慣的に左足で掃き蹴りを放った!
闇市拳では、掃き蹴りが最も恐ろしい技の一つだった。
「関節技か?」滕青山は手首に針が刺さるような痛みを感じ、自然と內勁を震わせ、螺旋の力で相手の指を振り払い、すぐに泥鰌のように滑らかに左拳を引き戻した。
左拳が危機を脱したと思った瞬間、その脚影が迫っていた。
大きな裁断機のような脚影が、滕青山の胸に激しく打ち込まれた。滕青山の胸は三寸ほど凹み、最強の勢いを避けたものの、その脚影は依然として胸に命中し、骨の折れる音が響き、滕青山は血を吐きながら吹き飛ばされた。
「まずい」地面に倒れた滕青山は、顔色が蒼白になった。
大地が震動した!
ドルゴトロフは高速で走るロードローラーのように、大笑いしながら突進してきた。
滕青山は目を血走らせ、地面に倒れたまま、両手で地面を掴み、十本の指をコンクリートに突き刺し、両足で強く蹴り、投石機から放たれた石のように飛び出し、右拳を大きく弧を描いてドルゴトロフに叩きつけた。
「ハハハ……」ドルゴトロフは突然一蹴りを放ち、滕青山に向かって猛烈に蹴りつけた。
「ドン!」滕青山は右拳を掌に変え、ドルゴトロフの脛を打ち、手の震えを感じながらも、その勢いを借りて右掌をドルゴトロフの胸に叩きつけた。
ほぼ同時に、滕青山の顔が真っ赤になり、腰を中心に捻り、全身の筋肉の力をほぼ完全に左拳に伝え、左腕の筋肉が盛り上がり、青筋が浮き出た。右拳よりも約二倍速い左拳が、ほぼ一直線にドルゴトロフの胸を襲った。
「アアッ~~」ドルゴトロフは咆哮しながら、滕青山の頭に向かって恐ろしい重拳を叩きつけた。
この拳が本当に滕青山の頭に命中すれば、間違いなく即死だった!
「一往無前、恐れることなし……」
滕青山は勝負の分かれ目となる瞬間に、この砲拳の真の意境を感じ取った。力が左腕の骨を一節ずつ伝わり、震動し、強烈な力が肩から拳へと伝わっていった。
「ウォォ~~」低く微かな虎の咆哮が響いた。
「シュッ!」
砲弾が発射されたように、滕青山の左拳は流星のごとく、ドルゴトロフの胸に直撃した。強烈な拳の力は一瞬で鋼鉄のように硬い胸骨を砕き、内臓を粉々にし、生命の火を消し去った。
ドルゴトロフの体が震え、滕青山の頭に向かっていた重拳の力が抜け、頭に当たっても皮膚すら傷つけなかった。
「これは……」
ドルゴトロフの瞳には信じられない色が宿り、自分の防御力をもってしても一撃で殺されるとは思いもよらなかったようだ。
そして、瞳の光が消え、轟然と倒れた。
「ゲホッ」滕青山は思わずまた血を吐いた。先ほどのドルゴトロフの掃き蹴りで、二本の肋骨が折れ、内臓を損傷していた。その状態では長期戦は不可能だったため、一気に最強かつ最も危険な技を繰り出したのだ——
虎砲拳!
形意五行拳術において、劈拳は斧のごとく、崩拳は矢のごとく、穿孔拳は錐のごとく、横拳は梁のごとく、砲拳は文字通り大砲のようだ。砲拳は五行拳の中で最も威力が大きいとされる。そして'虎砲拳'は虎形と砲拳を組み合わせて創られ、さらに威力が増している。これは海外の滕氏一族から伝わる形意の奥義である。
虎砲拳は、威力は最大だが、長所もあれば短所もある。
短所は、この最強の一撃を放った後、すぐに次の技に移れないことだ。もし敵を仕留められなければ、敵に隙を突かれて殺されてしまう!
本来なら、虎砲拳の威力をもってしても、怪物のような'ドルゴトロフ'を殺すことは不可能なはずだった。しかし、生死の境で、滕青山は形意拳の'宗師境界'の門を垣間見たのだ。
形意とは、形を象り意を重んじる。形は二の次で、意が最も重要だ。
宗師境界に達した証は、すべての筋肉の力、すべての骨の力を完璧に使いこなせることだ。骨の力を極限まで使うと、震動により不思議な動物の咆哮が生まれる。先ほどの虎砲拳で'虎の咆哮'が響いたように。
「今のは……」
滕青山の目が輝き、妻を失って以来初めて、抑えきれない喜びが顔に浮かんだ。
內家強者が目指すのは、まさに宗師境界なのだ!
体のあらゆる筋肉と筋骨の力を完璧にコントロールし、內勁が全身の経脈を貫き、一拳一脚に龍吟虎嘯の声を響かせる。しかし滕青山は最強の一撃である虎砲拳を使用した時だけ、かろうじてその微かな声を出せただけで、まだ本当の宗師の門をくぐってはいない。
「あの感覚は……」滕青山の脳裏にはその一撃を放った時の意境が鮮明に残っていた。
その意境を思い返しながら、滕青山は思わず微笑んだが、呼吸が乱れ、すぐに胸に痛みを感じ、思わず咳き込んだ。
周囲を見回して:「今は重傷だ、ここにはもう居られない」狡兎三窟の例えの通り、滕青山は敵に備えて揚州城内に何カ所も場所を借りていた。彼は屋内に入ることもせず、片手で胸を押さえながら、隣の塀に向かって走り、片手で支えて跳び越え、去っていった。
中庭には荒れ果てた跡だけが残り、二人のS級殺し屋'神槍使い'孫澤と'破壊者'ドルゴトロフは地面に横たわり、もはや生気は微塵も感じられなかった。