第53章 駒と指し手

向こうの秦家の庭園で、秦扶蘇は電話を切った。

秦せんせいはまだ少し怒っていて、秦扶蘇を見ながら言った。「墨秋はいつ戻ってくるんだ？」

秦扶蘇は少し怖がって、小声で言った。「彼女は言わなかったです。私の電話を切ってしまいましたが、もう葉錯を困らせることはないと思います。」

秦せんせいは怒って言った。「人を困らせる資格なんてないだろう？自分の家のバーでこんな恥ずかしい事が起きたのに、葉錯があのバーを壊さなかっただけでも感謝すべきだ。」

雲野鶴は傍らで諭すように言った。「秦さん、あなたは体調が回復したばかりです。怒るのは回復に良くありませんよ。」

秦せんせいは冷たく鼻を鳴らして言った。「葉錯の妹に手を出したのは、どんな奴らだ？」

秦扶蘇は言った。「私たちの学校の二人の同級生です。葉錯の妹と同じクラスのようで、普段から何か問題があったのかもしれません。葉錯家は貧しく、学校でずっといじめられていたようです。」

秦せんせいは冷たい声で言った。「こんな若くして、こんな悪質な事をする奴らに、良い未来があるものか？調べて、この二人に警告しろ。金と権力があるからといって好き勝手やっていいと思わせるな。さもないと、彼らの家族全員を雲海市から消し去ってやる。」

秦せんせいは長年高位に居て、上位者の威厳があった。そして彼の言葉は必ず実行される、それは強者だけが持つ資格だった。

雲野鶴は秦扶蘇が承諾して退出するのを見て、にこにこしながら言った。「霓兒から聞いたんですが、この葉錯は蘇家の娘にかなり気があるようですね。確か全校生徒の前で告白したとか。その時、葉錯は壇上で全校公開で批判されていたのに、随分と度胸があるものです。」

秦せんせいの口元に微笑みが浮かんだ。「若いっていいものだな。」

雲野鶴は山羊髭をひねりながら言った。「蘇家の娘は賢くて利発だ。葉錯以外に彼女を制御できる者はほとんどいないだろう。まさに絶妙の組み合わせだ。」

秦せんせいは笑って言った。「鶴さん、うちの扶蘇と君の霓兒の件、いつ決めるんだ？」

雲野鶴はにこにこしながら答えようとしたが、突然心が重くなった。最近、雲霓が何か様子がおかしいと感じていたが、どこがおかしいのか言えなかった。今日、やっと分かった気がした。