第59章 三藏肉

雲霓は太った店主を睨みつけ、手に持っていた人形を小さな女の子に渡しながら言った。「人形が欲しいの?これ、全部あげるわ」

小さな女の子は恥ずかしそうに答えた。「一つだけで十分です。お姉さん、ありがとう」

葉錯が横から口を挟んだ。「おばさんって呼びなさい」

雲霓は彼の足を叩き、女の子の方を向いて言った。「病気なの?少し良くなった?お姉さんとお兄さんで病院に連れて行ってあげましょうか」

葉錯が言った。「行きたいなら一人で行けよ。俺は帰って飯食うから」

雲霓は激怒した。「あなた、同情心のかけらもないの?こんなに可哀想な子供を見て、何の反応もないなんて」

葉錯は言った。「世の中には可哀想な人がたくさんいるだろ。全部面倒見切れるのか?この子たちは近所の子で、浮浪児じゃない。親もいるんだから、お前が心配することじゃない」

葉錯も以前は善人になろうと思ったことがあった。しかし、それは前世の話だ。実際、善人になって何か良い結果が得られるだろうか?この社会では、当たり屋に遭っても、証拠がなければ金を払うしかない。証拠があっても、当たり屋は捕まって警察に説教されるだけで、出てきたらまた同じことを繰り返す。

世界は善人に冷たく、悪人に優しい。葉錯は善良な人を軽蔑しているわけではないし、善行を間違いだとも思っていない。むしろ、善意を持って世界に接し続ける人々を心から尊敬している。

ただ、この世界には余りにも多くの邪悪が存在し、時として人を助けたことで逆に裏切られることもある。そんな時、誰もが善良さを保つべきではない。なぜなら、そのような善良さは愚かであり、邪悪を助長することになるからだ。

葉錯は前世で多くを経験し、心は既に岩のように硬くなっており、独自の善悪の概念を形成していた。しかし雲霓はまだ幼く、彼女が言うように、出会う人々は皆彼女に従順で、世界中の人が善人だと思い込んでいた。

葉錯に出会わなければ、雲霓は今でもこの世界に悪人はいないと信じていたかもしれない。もちろん、今雲霓に世界一の悪人を選ばせたら、間違いなく葉錯が選ばれるだろう。

雲霓は全ての人形を二人の子供たちに渡した。子供たちは喜びに満ちた表情で、人形は二人の背丈よりも高く積み上がった。二人では全部持ち帰れないため、葉錯が残りの大きな人形を抱えることになった。