許叔母がまた来た！

「顔を見せてごらん、痛むだろう？」ホテルに戻ってから、蘇乘羽は心配そうに言った。

「大丈夫よ、お兄ちゃんが愛してくれるから、もう痛くないわ」蘇笑笑は茶目っ気たっぷりに答えた。

蘇乘羽は手のひらを広げ、霊力を運転させながら、優しくマッサージすると、蘇笑笑の顔の腫れはすぐに引いていった。

蘇乘羽は今は煉気境第二層に過ぎず、使える霊力は微弱だが、腫れや瘀血を消す程度のことは造作もない。

「あれ？腫れが引いてるし、痛くない。お兄ちゃん、どうやったの？」

蘇笑笑は頬に触れながら、驚きの声を上げた。

「ちょっとした小技さ。大したことじゃないよ。」蘇乘羽は微笑んだ。

「お兄ちゃん、どうして今こんなに強くなったの？」

蘇笑笑の記憶では、蘇乘羽は温厚な性格で、子供の頃から殆ど喧嘩などほとんどしたことがなかった。

「刑務所で鍛えたんだ。」

蘇乘羽はまだ自分が修行者として入道したことを蘇笑笑に明かすつもりはなかった。そんな話をしても、普通の人間には到底理解できないだろう。

「この三年間、刑務所でたくさん苦労したでしょう。本当に悔しいわ。」

服役のことを思い出すと、蘇笑笑はまだ心が晴れなかった。

「苦労は人を鍛えるものさ。それより、これからは何か困ったことがあったら、すぐに私に連絡しろよ。いいな？」蘇乘羽は念を押した。

「うん」蘇笑笑は頷き、心は喜びと温かさで一杯だった。

姜明傑は病院に運ばれた。姜明傑の母親の李鳳霞は息子の無残な姿を見て、太ももも刺されて血まみれになっているのを見て、心を痛め、激しく罵った。

「あの役立たずめ、よくもお前をこんな目に遭わせたわね。何様のつもりなの？」

「姉さん、すごく痛いよ。蘇乘羽は、もし僕が蘇笑笑をいじめたら殺すって言ったんだ」姜明傑は恐れおののいて言った。

「よくも！」

姜語嫣は激怒した「あいつを甘く見てたわ。三年も牢にいたのに、随分と腕を上げたみたいね。人を殴る術を覚えたみたいだわ。傑、安心して。姉さんが必ず仇を討ってあげるから。」

「それだけじゃない、蘇乘羽は、蘇家の遺産を全部返せって言ったんだ。さもないと、許さないって。」

「何を偉そうに！ただの負け犬の分際で。三年も塀の中にいたくせに、まだ夢見てるの？私に勝てるとでも思ってるの？」

姜語嫣は冷笑し、残忍な目つきで呟いた「今すぐ陳俊に電話するわ。あいつの命は、もう今日までよ！」

姜語嫣は病室を出て、陳俊に電話をかけた。陳俊は冷笑して言「安心しろ。あの兄妹は絶対に見逃さない。蘇家は、断絶させてやる。」

姜語嫣は陳俊が多くの裏社会の人間と繋がりがあることを知っていた。蘇乘羽のような取るに足らない小物を始末するのは、朝飯前だった。

翌日、蘇乘羽は蘇笑笑を学校に送った後、霖江大学の湖畔で午後まで修練を続けた。

霖江大学周辺の霊気は彼によってほぼ吸収し尽くされ、枝葉の茂った大きな榕樹はわずか一夜で葉が黄ばんで地面に落ち始めていた。

蘇乘羽は榕樹の中に含まれる霊気まで奪い取り、このまま修練を続ければ、この木はすぐに枯れてしまうだろう。

「まだ第三層に突破できないか。天地の霊気がまだ足りないな！」

蘇乘羽は木から飛び降り、不満げにため息をついた。これを他の修行者が知れば、きっと蘇乘羽を恩知らずだと罵るだろう。

二日で入道から煉気境第二層まで突破するというのは、既に多くの修行者が嫉妬で目を血走らせて罵倒するほどの速さだった。

通常、境界突破は年単位で計算されるものだが、蘇乘羽は日単位で進んでいた。まさに名実共に超天才だった！

蘇乘羽は湖畔を離れ、教学棟に向かった。神力を広げ、蘇笑笑が真面目に授業を受けているのを感じ取ると、彼女を邪魔せずに直接霖江大学を離れ、新しい修練の場所を探し始めた。

蘇乘羽はタクシーで玉湖公園に向かった。ここの天地の霊気の濃度は霖江大学と比べると遥かに低かった。蘇乘羽は人気のない場所を見つけ、すぐに霊気を吸収し尽くしたが、それでも第三層には突破できなかった。

仕方なく、蘇乘羽はホテルに戻ることにした。

本来なら蘇笑笑がホテルに来るはずだったが、蘇乘羽は厳しく断った。

また蘇笑笑と一緒に寝ることになったら、いずれ自制が効かなくなり、過ちを犯してしまうかもしれない。

昨夜も、一晩中心の葛藤に苦しみ、何度も湧き上がる邪念を必死で抑え込んでいた。

蘇乘羽はベッドに横たわって休んでいると、頭の中にまた許南枝の妖艶な姿が脳裏に浮かぶ。あの夜の激情を思い出し、下腹部に熱い衝動がこみ上げてくる。

「蘇乘羽よ蘇乘羽、どうしてこんなに堕落してしまったんだ？修練に励むべきなのに、許叔母のことばかり考えてはいけない。」

蘇乘羽はため息をつき、しばらくの間許叔母のことを忘れることを決意した。道心を乱されてはいけない。たとえ許叔母が目の前に現れても、心を乱されてはいけないのだ。

そのとき、ドアをノックする音がした。

「この子ったら、ホテルに来るなと言ったのに。どうして言うことを聞かないんだ。また私の道心を乱しに来たのか。」

蘇乘羽は不満げに呟きながら、立ち上がってドアを開けに行った。

ドアを開けると、許南枝が立っていて、懐かしい香りが鼻をくすぐった。

「許叔母？！」

蘇乘羽は一瞬驚き、すぐに喜びが弾けた。許南枝のしなやかな腰を引き寄せ、許南枝の身に漂う魅惑的な香りを貪るように吸い込んだ。

さっきまでの心を乱されまいという決意は、蘇乘羽の頭から一瞬で吹き飛んでしまった。

道心も修練も糞食らえだ。許叔母を抱きしめる方が良いに決まっている。

「離しなさい。」許南枝は冷たく言った。

「嫌だ。」蘇乘羽はさらに強く抱きしめた。

許南枝はぐっと力を込めて蘇乘羽を押しのけ、そのまま部屋に入っていった。蘇乘羽は手を擦り合わせ、胸の高鳴りを抑えきれなかった。

「許叔母、私に会いたかったんでしょう？」蘇乘羽は尋ねた。

もう二度と会わないと約束したはずなのに、許南枝が自ら訪ねてきたということは、やはり体は正直なんだな、と蘇乘羽は密かに喜んでいた。