第41章 出発

陸陽はまた焼餅を売る屋台に来た。

焼餅を売っているのは先輩の女子で、生地を発酵させ、寝かせ、こね、叩いて形を整える様子は、長年の練習を重ねた証だった。

先輩は生地を小さな団子に分け、手首、腕、胴体……全身の力を使って、生地を平たく伸ばしていく。

その動きには何か理があるようで、単なる生地こねではなく、身体の協調性を鍛える方法のようにも見えた。

先輩は生地を鍛造台に置き、大きな鉄槌を振り下ろすと、ガンガンという轟音と共に火花が散り、地面に小さな穴を焼き付けた。

生地は焼き入れされ、冷水は瞬く間に沸騰し、ぶくぶくと泡を立てる。すぐに一枚の焼餅が出来上がった。

陸陽は目を見張った。百錬峰は本当に面白い発想をする。料理と錬器を見事に融合させているのだ。

「焼餅一枚ください」

食堂の物は本当に安い。陸陽はここで多くの素晴らしい物を見かけた。貢献ポイントが限られていなければ、全部買い占めたいくらいだった。

……

翌朝、陸陽は約束通り、問道宗の山門で二人と合流した。

「待ってたよ」孟景舟は陸陽を見て手を振った。彼の後ろには馬車が止まっていた。以前彼らを問道宗まで運んだあの馬車で、馬も同じ馬さんだった。

唯一の違いは、三人目が大師姉の雲芝から蠻骨に変わっていることだった。

蠻骨は勉強熱心で、人を待つ間も学習していた。ゆったりとした儒者の衣が彼の筋肉を包み込み、まるで体格のいい儒者のように見えた。

「飛舟は使わないんですか?」陸陽は飛舟に乗る準備をしていたのだ。彼の縮地成寸の術は便利だが、やはり飛舟ほど速くはない。

彼は一時的に縮地成寸の術の習得を諦め、縮地と成寸の境に専念していた。

孟景舟は馬車を叩きながら、得意げに言った。「この馬車は異寶なんだ。中に空間陣法が仕込まれていて、中にいる我々には遅く感じるが、外から見ると飛舟並みの速さで走っているんだよ」

考えてみれば当然だ。孟家は帝都にあり、孟景舟がこの馬車で孟家から問道宗まで来たのは、馬さんがのろのろと歩いて来たわけではないはずだ。そんなことをしたら一年かかっても問道宗には着かないだろう。

馬車は問道宗への道中では陣法を使って飛ぶように進み、問道宗に近づくと陣法を解除して速度を落とす。これは問道宗への敬意を示すためだ。

陸陽が以前見たのは、既に減速した馬車だったのだ。

三人は馬車に乗り込んだ。馬車の内部は相変わらず広く、今日になってようやく陸陽はこの馬車がどれほどの価値があるのか理解した。

「そういえば、どこに行くんですか?任務は何ですか?」

「あれ、言ってなかったっけ?青槐郡という所に行くんだ。詳しいことは蠻骨兄から聞いてくれ。彼が見つけてきた任務だからね」

蠻骨は本の間に栞を挟み、本を閉じると、ゆっくりと話し始めた。

「この件は私が任務で外出した時に、飛舟の乗客から聞いた話です。その人は商人の頭領で、凡人には知られていない多くの事を知っていました。彼は商人たちの間で伝わる話を私に教えてくれたのです。かなり信憑性のある話です」

「青槐郡と延江郡の間には、広大な山々があり、連なって起伏しています。商人がこの山々を越えるには、現地の猟師の案内が必要不可欠です」

「その山林に恐ろしい存在が現れ、猟師たちは生活の場である山林から追い出されてしまったのです……」

……

夜の帳が下り、乱雑に生い茂る木々の枝が月光を遮っていた。雷鳴が轟き、土砂降りの雨が地面を泥濘にし、足の踏み場もない状態だった。

七、八人が腰に縄を結び合わせ、一列になっていた。誰かが滑って山から転落するのを防ぐためだ。

周りは雨音で満ちており、もし誰かが落ちて叫んでも、その声は聞こえないだろう。

彼らは蓑笠を身につけ、登山杖を手に、背中に籠を背負い、一歩一歩慎重に進んでいた。深い穴に踏み込まないよう気を付けながら。

冷たい雨が彼らの顔を打ち付け、前を見ても密集した雨のカーテンが視界を遮り、ただ先頭の年老いた猟師の後を追うしかなかった。

「足元に気をつけろ!雨の日の山道は滑りやすいぞ!」

「疲れても止まるな、もう少しだ!今止まったら、また歩き出す気力が出なくなるぞ!」

「も、もう無理です……助けて!落ちる!」

誰かが足を滑らせ、体を支えられず、山道の崖へと滑り落ちていった。

商人たちは縄の末端に伝わる力を感じ、誰かが落ちかけているのに気付き、すぐに足を止めて慌てて引き上げようとした。

「躍ちゃん、縄をしっかり掴んでろ!みんなで引っ張るぞ!」

「力が出ない」躍ちゃんは崖にぶら下がったまま、腰の太い麻縄だけが彼を支えていた。

彼は疲れと空腹で力が入らず、縄を伝って上がることもできなかった。

経験豊富な老猟師は冷静に皆を指揮しながら、自ら手を貸して引き上げようとした。

「お前たち何人かは木に掴まれ!俺たち七人も滑り落ちないようにな!」

「残りの者は縄を手首に巻きつけろ!私が一二三で号令をかけるから、みんなで一緒に引っ張るんだ!」

「いち、に、さん、引け!」

「いち、に、さん、引け!」

九牛の力を費やし、ようやく躍ちゃんを引き上げることができた。既に疲れ切っていた一行は、立っているのもやっとの状態だった。

老猟師は気を緩めず、緊張した面持ちで躍ちゃんの状態を確認した。「躍ちゃん、どうやって滑り落ちた?誰かに押されたような感覚はなかったか?」

躍ちゃんは困惑して首を振った。老猟師がなぜそんなことを聞くのか分からなかった。もちろん自分で滑り落ちたのだ。誰かが危害を加えるはずがない。

「孫さん、それはどういう意味ですか?」齊武が尋ねた。彼は商人の頭領で、老猟師の質問から何か問題を感じ取っていた。

老猟師は首を振り、前方の廃れた建物を指さした。「先を急ごう。山神廟に着いてから話す」

土砂降りの雨の中では話をする環境ではない。齊武は頷き、皆を励ます言葉を掛けて、早く山神廟で雨宿りするよう促した。

一行は山神廟に着くと、体裁も構わず蓑笠を脱ぎ、地面に腰を下ろして大きく息を吐いた。そして急いで背負っていた籠の中身が濡れていないか確認した。もし濡れていたら、この旅は無駄になり、元も子もなくなってしまう。

「よかった、よかった。事前に防水布で包んでおいてくれた齊兄さんの先見の明があったからね」

山神廟は特別立派というわけではないが、広々としていた。中央には埃まみれの古びた三体の山神像が鎮座し、周りは土と糞尿で汚れていた。山神様の名を記した位牌は行方不明で、供物は随分前に野獣に食べられたようだ。両開きの扉は跡形もなく、窓は壊れ、冷たい風が吹き込んでいた。

一行はそれほど気にしていなかった。彼らにとって、雨宿りができる場所なら何でも良かったのだ。

齊武は籠から商品を取り出して供物とし、三体の山神様に捧げ、雨宿りをさせてくれることへの感謝を示した。

三体の山神像は泥塑で作られており、技巧は特別優れているわけではなかったが、それぞれの違いは見て取れた。中央の山神様は君子剣を持ち、正気に満ちた表情を浮かべ、両脇の山神様は文武それぞれを象徴していた。一方は儒者の衣をまとい書物を持ち文の位に、もう一方は純陽正氣を帯び武の位に就いており、位階は明確で秩序正しかった。

「山神様、どうか私たちの旅の安全をお守りください」

齊武はなぜか三体の山神像に霊性を感じ、まるで生きているかのように思えた。