第12章 誰も阻めない
林亦は方尤を一瞥し、彼女に軽く頷いて、にっこりと笑った。
「ありがとう」
林亦の笑顔を見て、方尤の心に微かな波紋が走った。
言い終わると、林亦は顔を背け、笑みが消えた。
陳琳嫣は倒れている趙辰を支え起こした。
趙辰の顔は酷く腫れていた。
「私の後ろについて来い」
林亦は静かに言い終わると、振り返ることなく大股で歩き出した。
「ついて行け、ついて行け！」
地面に殴り倒されて半日も起き上がれなかった第一高校の男子生徒たちは、まるで突然生命力を取り戻したかのように、一人また一人と震えながら立ち上がった。林亦から置いていかれることを恐れていた。
陳琳嫣は趙辰を支えながら林亦の後ろにぴったりとついて行き、邵思思は陳琳嫣の背後に隠れ、方尤はワインボトルを手に警戒の表情を浮かべていた。
龍社長に踏みつけられていた李子明は、この機会に這うようにして立ち上がった。
鼻から血を流していたが、拭う暇もなく、仲間たちの後を追った。
林亦は最前列を歩き、廊下には三十人余りの黒服のがんじょうな男たちが立ちふさがっていた。
彼らは鉄パイプを手に持ち、露出した腕にはほとんどタトゥーが入っていた。
彼らは帝豪KTVの中核的な存在で、この三十数人は皆、屈強な体格をしていた。
林亦の後ろにいた第一高校の生徒たちは、この状況を目の当たりにして、一様に顔を蒼白にした。
そのがんじょうな男たちは、向かってくる林亦を見て、目に驚きの色を浮かべた。
于偉大がこれほどの人数を呼び集めたのが、まだ未成年にも見える少年一人のためだとは誰も想像していなかった。
林亦の容姿は余りにも幼く、体つきも一見して風で倒れそうな印象を与えた。
一発の拳で完全にノックアウトできそうに見えた。
しかしその驚きはすぐに消え、彼らは帝豪KTVの用心棒であり、用心棒としてのプロ意識があった。
最前列のがんじょうな男は鉄パイプを振り上げ、力一杯林亦の頭めがけて振り下ろした。
その一撃は凶暴な勢いを持っていた。
しかし鉄パイプが落ちてくる前に、林亦は素早く身を寄せ、片手で相手の鉄パイプを握る手首を掴み、強く下方へ捻じ曲げた。
バキッという音が鳴り、そのがんじょうな男の顔に一瞬の戸惑いが走り、すぐに手首の関節から激痛が走った。
しかし林亦は彼に叫び声を上げる機会すら与えなかった。
林亦は素早く膝を上げ、がんじょうな男の腹部に突き刺すように打ち込み、相手を完全に転倒させた。そして同時に彼の手から鉄パイプを奪い取った。
最初のがんじょうな男が倒れるのと同時に、林亦は手にした鉄パイプを振り上げ、二人目のがんじょうな男の首筋に打ち込んだ。
一撃必殺。
林亦の一撃を受けたがんじょうな男は、何の躊躇もなく地面に倒れ込み、床に叩きつけられて鈍い音を立てた。
「私、林九玄は金丹初期の時でさえ、十仙八洞の五大元嬰期の高手に囲まれても恐れたことはない」
林亦は冷ややかに鼻を鳴らし、一歩前に出た。
空中から鉄パイプが落ちてきた時、林亦は左手を伸ばし、何の技巧も使わず、掌の力だけでその一撃を受け止めた。
鉄パイプは左手の掌に当たった。そこには龍が隠されているとはいえ、この身体があまりにも脆弱なため、林亦は掌に灼けるような痛みを感じた。
「以前の林亦なら、この程度の痛みで倒れていただろう。しかし今の私は林九玄だ！」
林亦の目が光り、左手の掌で掌中の鉄パイプを握りしめた。
振り下ろしたがんじょうな男は唖然とした表情を浮かべた。自分の一撃がどれほどの衝撃力を持っていたか、よく分かっていた。
もしこの一撃が人の頭に当たれば、間違いなく頭蓋骨を砕いていただろう。
しかし、全力で放ったその一撃が、目の前の一見か弱そうな少年の手によって完全に無効化されてしまった。
そしてそのがんじょうな男は恐ろしいことに気付いた。少年に握られた鉄パイプを取り返すことが全くできないのだ！
「前世では私は臆病で卑しく、人生を無駄に過ごした。今世では、誰も私の歩みを止めることはできない」
林亦は右拳を固く握り締め、目の前のがんじょうな男の胸に向かって一撃を放った。
この一撃は特別強い力を持っていたわけではないが、拳先は正確にがんじょうな男の胸の膻中穴に命中した。
一撃。
打って即座に引く。
簡潔明瞭。
林亦は鉄パイプを握っていた左手を放したが、そのがんじょうな男にはもはや振り回す力が残っていなかった。
彼は呆然とした表情で自分の胸を押さえ、頭がぼんやりとしたまま地面に膝をつ
いた。
「たとえ私林九玄が修為を失い、法寶を失い、すべてを失ったとしても、それがどうした」
林亦は冷たい表情を浮かべながら、彼の傍らをゆっくりと通り過ぎた。
一歩進むごとに一人を倒し、三歩進んでも跡形もない。
林亦の前進する速度は終始一定で、まるで絶え間なく前進する機械のようだった。
于偉大は個室のドアの前に立ち、遙遙と絶え間なく前進する林亦を見つめ、目を光らせた。
彼は気付いた。林亦の一歩一歩の大きさが全く同じなのだ！
「さっき個室で、一人で十人と戦った時も、彼はほとんど足を動かさずにその場に立っていた。一体どんな人間なんだ」
于偉大は呟きながら、手に持った携帯電話を握りしめ、その外側の画面を完全に粉々に握りつぶした。
バン！
林亦は廊下の端に立ちはだかる最後の一人を片手で打ち倒し、足を止めて振り返り、群衆を通して于偉大と目が合った。
その後、林亦は何も言わずに階下へ向かい、また圧倒的な力で進んでいった。帝豪KTVの玄関を出るころには、後ろには床に倒れて呻く黒服の男たちが散乱していた。
「于くん、本当にこのまま彼を行かせるのか？」
龍社長は学生たちが林亦の後に続いて出て行くのを見ながら、太った顔に怒りの色を浮かべた。
于偉大は深く息を吸い込んだ。「申し訳ありません、龍社長。今日の件は私の不手際でした。後ほど帝豪兄さんに直接謝罪に参ります。今は先に病院へお送りしましょう」
「あの男は、私には止められる相手ではありませんでした」
そう言って、于偉大の目は宙を彷徨った。
傍らの龍社長はその言葉を聞き、廊下に倒れている黒服の男たちを見て、自然と何も言わなくなった。すぐに後ろから人が駆けつけ、重傷を負った龍社長を支えて病院へ向かった。
隣の個室からは、時折顔を覗かせる客たちが外の光景を見て、皆驚きの表情を浮かべていた。
誰が帝豪KTVに喧嘩を売りに来たのか、誰も知らなかった。
時刻はすでに遅くなっていた。
帝豪KTVの外の通りには人影もまばらだった。
林亦は路肩でタクシーを止め、まだ趙辰を支えている陳琳嫣に冷たい目を向けた。「乗れ、帰る時間だ」
第一高校の男子生徒たちはほとんどが酷い目に遭い、外に出るとすぐに数人が立ち上がれずに地面に倒れ込んだ。
さっきまで恐怖で固まっていた女子生徒たちは、この時になってようやく我に返り、急いでそれぞれ自分のクラスメートを支えて、倒れないようにした。
陳琳嫣は林亦を見つめ、歯を食いしばった。
今夜の林亦は陳琳嫣に全く異なる印象を与えた。
あの強大な自信、さらには傲慢とも言える実力は、陳琳嫣に初めて目の前の林亦を真剣に見直させた。
陳琳嫣は林亦と初めて会った時のことを思い出した。
彼は古びた服を着て、髪は手入れされておらず、顔には間抜けで恥ずかしそうな笑みを浮かべ、全体的に灰色がかっていて、永遠に洗い落とせないかのようだった。
そんな林亦が一番嫌だった。田舎くさくて、陳琳嫣の周りの男子生徒と比べても、誰にも及ばなかった。
でも今は。
陳琳嫣は林亦を見つめた。「ずっとこんなに強かったの？」
林亦は何も言わなかった。説明する必要性を感じなかった。
以前の林亦なら誤解されることを恐れただろうが、林九玄はそうではない。
林九玄は本心のままに、心の赴くままに行動し、説明することもなければ、隠すこともない。
「車に乗れ、帰るぞ。さもないと呂おばさんが心配する」
林亦は陳琳嫣を見つめ、特に感情を示さなかった。
「そんなに強いなら、なんで最初から動かなかったの？みんなが傷つくまで待ってから動くなんて、友達が殴られるのを見て楽しんでたの？」
陳琳嫣は歯を食いしばった。「私は友達を病院に連れて行かなきゃいけない。あなたは一人で帰って。母さんが聞いたら、友達の家に泊まると伝えて」
「車に乗れ、帰るぞ」
林亦は眉をひそめた。無意味な議論は好まなかった。
「あなたが一人で帰って」
陳琳嫣は深く息を吸った。「あなたに構われたくない！」
そして陳琳嫣は自分が支えている趙辰に優しく尋ねた。「大丈夫？病院に連れて行くわ」
趙辰は林亦を一瞥してから、陳琳嫣に向かって苦笑いを浮かべた。「ああ、すまない」
後ろにいた黎青松がこの時咳払いをし、林亦を一目見てから、クラスメートたちに向かって言った。「行こう、みんなで病院に。すまない、医療費は俺が払う。この借りは、必ず返してやる！」
黎青松は後ろの帝豪KTVを恨めしそうに見つめた。
今日は本来彼の誕生日を祝い、ついでに趙辰の歓迎会をするはずだった。
まさかこんなことになるとは思わず、完全に面目を失ってしまった。
さっきまで黎青松は林亦に近づこうと考えていた。結局のところ、林亦がいなければ、彼らは今夜ここで大変なことになっていたはずだから。
しかし陳琳嫣の言葉で、黎青松の態度は一変した。
感謝の気持ちが怒りに変わった。
林亦がすぐに行動を起こさず、自分たちがボコボコにされるまで待っていたことに腹を立てた。目立ちたかっただけなのか！
黎青松は林亦を横目で見た。
林亦の身なりは貧相で、全身の服を合わせても黎青松の履いている最新のスニーカー一足にも及ばない！
貧乏人が、喧嘩が強いからといって何になる。
金も地位もない家の出、所詮は少し強い不良でしかない！
「あなたって本当に最低ね」
邵思思も趙辰を支えに行き、林亦を睨みつけた。「私たちが恥をかくのを見て喜んでたんでしょ。あなたみたいな人、教養がない！所詮ならず者よ！」
言い終わると、第一高校の男女生徒たちは大勢で別の道へと向かっていった。
この近くには病院があった。
「ありがとう」
方尤がこの時近づいてきた。林亦は彼女を一瞥し、その魅力的な体つきを見渡してから、自嘲的に笑った。「夜は寒いから、服をちゃんと着なよ。また俺みたいなならず者に会ったら、我慢できなくなって襲われるかもしれないぞ」
そう言うと、林亦は首を振り、タクシーのドアを閉め、両手をポケットに入れて、第一高校の生徒たちの後を追った。
陳琳嫣が何を言おうと林亦は気にしなかった。ただ呂おばさんに約束した彼女の安全を守るだけだった。
夜の色は人を誘い、冷たい風が立ち始めた。
方尤は前を歩く林亦の背中を見つめ、目を凝らしたまま、しばらくの間何かを考えているようだった。