梁成九の動きが突然止まった。
想像していた優雅な抜刀の一振り、一瞬にして場を威圧するような壮大な出来事は起こらなかった。
林亦の横顔を見た瞬間、梁成九は心臓が震え、くわえていたタバコを落としてしまい、しばらく我に返れなかった。
あの人なのか?
梁成九は心の中で呟いた。ただ林亦の横顔にどこか見覚えがあるような気がした。
その時、林亦は少し顔を向け、半身をかがめ、刀の柄を握りしめたまま抜けない状態で、呆然と自分を見つめる梁成九の虚ろな目を見た。
「刀を抜くんじゃなかったのか、なぜまだ抜かない」林亦は無表情で梁成九を見つめ、冷たい声で言った。
林亦の声を聞いた瞬間、梁成九は全身が震えた。
「そうだよ、成九、刀を抜けよ。今夜は俺が銭湯に連れて行ってやるぞ」傍らの肖陽も焦りを見せた。
普段なら、肖陽は梁成九など眼中にもなかった。どう考えても、自分の父親の肖邦亮は王帝豪と同格の存在なのだから。
しかし虎も平地に落ちれば犬にも噛まれる。今の肖陽にはそんな余裕はなく、ただ目の前の林亦を早く倒したかった。
そして思う存分楽しもうと。鍾水雨の体つきと容姿を思い浮かべ、今の彼女の焦りと無力さに満ちた悲しげな表情を見ると、肖陽の心はますます焦りを感じた。
「あ、いや、刀は抜くつもりはなかった」梁成九は戸惑いながら思わず答え、素早く手を離して立ち上がり、一歩後ろに下がった。
あの夜、林亦から受けた印象は、まるで戦神のようだった。
無敵の姿は、誰もが心から感服せざるを得なかった。
「用がないなら、出て行け」林亦は七文字を吐き出した。
「はい!はい!今すぐ出ます!申し訳ありません!」梁成九はその言葉を聞き、大赦を受けたかのように答えた。
彼の背中は一瞬のうちに冷や汗で濡れていた。
あの夜以来、于偉大は梁成九に林亦を探すよう命じていたが、梁成九は今朝やっと病院を出たばかりで、まだ探し始められていなかった。
それがこうして再び出会うことになった。
林亦に対して、梁成九は全く自信がなかった。しかも林亦の肘打ちを食らってから、今でも頭が激しく痛む。
「お前...なぜ行くんだ!成九、梁成九!」肖陽は先ほど入ってきたばかりの梁成九が、突然表情を変え、疫病神でも避けるかのように外へ向かうのを見て、焦りを感じた。