「彼は何をしているんだ?どこにボールを蹴ろうとしているんだ?」
「分からないよ、さっきまでシュートチャンスだったのに!」
スタンドでは、林亦が突然振り返って反対方向に大きく蹴ったのを見て、皆が困惑の表情を浮かべていた。
空を切る音が響いた。
サッカーボールが弧を描いて飛んでいく。
「東さん、何か変な感じがするんですけど」グラウンドを離れようとしていた李岩が思わず尋ねた。
「俺もそう感じる」隣の王德が頷きながら振り返った。
バン!
次の瞬間、ボールが彼の足元に落ち、王德がボールを踏んでバランスを崩し、地面に転んでしまった。
「何だこれは!」趙東は驚いて振り返り、空中で回転するボールを目にした。
ボールは空中で回転し、林亦は無表情で歩み寄ってきた。
「自分の言動には代償が伴うものだ。逃げようとしても、そう簡単にはいかないよ」林亦は冷ややかに言い、ボールに視線を向けると、強く前に出て、足を上げ、ちょうど戻ってきたボールを迎え撃った。
林亦は一蹴りでボールを足下に押さえた。
場内は静まり返った。
趙東は顔面蒼白で、遙遙と自分に向かって歩いてくる林亦を見つめ、額には冷や汗が浮かんでいた。
「彼は何をしているんだ」ピーターは呆然と、目の前の光景を見つめ、しばらく我に返ることができなかった。
陳萌はその様子を見て、最初は呆然としたが、すぐに多くを考える余裕もなく、林亦の方向へ走り出した。
「何をするつもり!」陳萌は林亦の前に立ち、体を使って趙東に近づこうとする林亦を止めようとした。
「お前には関係ない。どけ」林亦は陳萌を一瞥もせず、彼女の横をすり抜けた。
「さっきのシュートは故意だったでしょ!」陳萌は諦めず、林亦の傍らにぴったりとついて行った。「林亦!自分が何をしているのかよく考えて!」
陳萌は厳しい口調で林亦に警告した。
趙東たちは、グラウンドに立ったまま、どうすることもできずにいた。
林亦は陳萌を見向きもせず真っすぐ進み、陳萌の傍らを通り過ぎる際、片手で軽く押しのけた。
「午前中に言ったことを覚えているか、趙東」林亦は趙東の前に立ち、冷たい表情を浮かべた。
試合を通して、林亦の額には一滴の汗も見られなかった。