盛天グランドホテルは明海市のシンボル的なホテルで、建物全体が三日月型をしており、ホテルの正面には巨大な噴水池がある。
ホテルの駐車場には高級車が数多く並んでいた。
明海市唯一の五つ星ホテルとして、盛天グランドホテルには明海市の有力者たちが出入りしていた。
「それでは、龍社長、この取引はこれで決まりということで?」
ポルシェが玄関前に停車すると、ドアマンが急いで車のドアを開けた。
盛海洋が車から降り、同時に太った男も降りてきた。
太った男は体格がよく、傲慢な表情で盛海洋を見ながら言った。「また考えましょう。萬盛不動産の実力は悪くないですが、他にも数社と交渉中です。我が龍家の展開する事業は決して小規模なものではありませんからね。そういうことで、また改めて。」
ドアマンは車のキーを受け取り、車を駐車場へ移動させた。
盛海洋は龍社長の言葉を聞いて心中不満を感じたが、表には出さなかった。
目の前の龍社長は龍天河という名で、彼の父親は江城で龍王と呼ばれる龍占宇であり、龍氏企業は幅広い分野に進出していた。
龍氏企業内でこの龍天河はそれほど重用されていないと聞いていたが、それでも龍家の人間である以上、盛海洋も一定の敬意を払う必要があった。
「はい、では龍社長にもう少しご検討いただければと思います。私ども萬盛不動産が最良のパートナーであることは間違いありません」盛海洋は頷きながら、この龍社長が扱いにくい相手だと分かっており、実際にはあまり期待していなかった。
この数日の接触で、盛海洋はこの龍社長が威勢のいい人物で、帝豪とも深い関係があることを知った。
「前に于偉大もそう言っていましたがね、ビジネスはビジネスですよ」龍社長は手を振り、いらだった表情を見せた。
前回帝豪で誰かにやられた件で、今でもそのトラウマから抜け出せないでいた。
盛海洋は眉をひそめ、どうやってこの取引を進めるか考えていた時、突然龍社長の表情が変わったことに気づいた。
それまで傲慢だった龍社長の表情が、今や肥えた顔を震わせ、豆粒のような目を大きく見開き、硬直した表情で盛海洋の背後を見つめていた。
盛海洋は不思議に思って振り返ると、通りの向こうから一人の痩せた人影がゆっくりと近づいてくるのが見えた。