渡辺拓馬の口元の笑みが凍りつき、その妖艶な目が一瞬だけ暗くなった。
薄い唇をグラスの縁に当てながら、横目で九条結衣を見て、「怒ってるの?」と尋ねた。
「こんな場所に来るのに一言も言ってくれなかったのよ。怒るのは当然でしょう?」
九条結衣の声は冷たかった。渡辺拓馬が彼女を知って以来、初めてこんな態度で話しかけられた。
彼は先ほど結衣が何を経験したのか分からなかったが、彼女の怒りの中に隠された悲しみと無力感を感じ取ることができた。
「ごめん、結衣。今回は僕が悪かった。もう二度とこんなことはしない。」
彼は不真面目な態度を改め、魅惑的な瞳で九条結衣を見つめた。その目の奥に漂う深い愛情と優しさを、結衣は見ることができなかった。
九条結衣は何も言わず、グラスを手に取り続け、一杯また一杯と飲み続けた。