060.愛人の子に資格なし

かつて、彼女は藤堂澄人の目を気にしていたが、今では、お嬢様としての傲慢さと横暴さを思う存分発揮できるようになった。本当に良かった。

木村靖子は顔色を失い、目の縁が赤くなっていた。この時点で、演技なのか、本当に九条結衣に脅かされたのかは分からなかった。

「お姉...九条さん、全て私が悪かったんです。今夜父が私をここに連れてくるなんて知らなかったんです。もし知っていたら、絶対にあなたを困らせるようなことはしなかったのに。」

涙が止めどなく流れ落ち、彼女は必死に説明を続けた。

「父は一緒に食事をしようと言っただけで、ここに来るとは知らなかったんです。信じてください。あなたを困らせるつもりなんて全くなかったんです。私は...」

「もういい、芝居はやめなさい。ここには私たち二人しかいないのに、誰に見せているの?!!」

九条結衣は苛立ちながら彼女の言葉を遮った。確かに木村靖子の演技は上手く、男なら誰でも同情して可哀想に思うだろう。

残念ながら彼女は女だった。その性別が、そのような感情を抱くことを許さなかった。

九条結衣は冷笑し、木村靖子の真っ赤な目と、まだ落ちていない涙を湛えた瞳を見つめた。

「木村靖子、はっきり言っておくわ。これ以上私の前で無駄な芝居を続けないように。あなたも疲れるし、私も気分が悪くなる。お互いのためにならないわ。」

長い指先で、こめかみに落ちた髪をさらりと払いのけ、その仕草には慵懒な中に気品が漂っていた。

木村靖子は認めざるを得なかった。九条結衣が持つ生まれながらの気品は、どれだけ宝石や装飾品で飾り立てても真似できないものだった。

羨ましくもあり、妬ましくもあり、だからこそ彼女の心はますます諦めきれず、運命に従いたくなかった。

骨の髄まで染み付いたその不甘さが、九条結衣を塵芥の中へ突き落とし、その地位を奪いたいという思いをますます強くさせた。

同じ九条政の娘なのに、なぜ自分はこんな卑しい立場に甘んじ、九条結衣と対等になれないのか。

このまま九条結衣に押さえつけられ続けるのは嫌だった。

「今、私の前で演技をしているのはもちろん、本気で私の前に跪いて死ぬまで謝ったとしても、私を通じて九条家に入る機会なんて与えないわ。分かった?」