096.生意気な藤堂社長

藤堂澄人「……」

「私の携帯は?」

九条結衣は一瞬戸惑い、手にしたバッグの中を探ってみると、確かに携帯がないことに気づいた。

いつ盗まれたのだろう?

彼女は眉をひそめ、素早く前に進み出て、九条初の携帯に向かって言った。「あの、すみません。私の携帯を拾っていただき、ありがとうございます。携帯には重要な資料がたくさん入っているので、返していただけませんか?お礼はしっかりとさせていただきます」

言葉が終わると、電話の向こうから聞き覚えのある嘲笑う声が聞こえてきた。「お前のその程度の金なんか、俺が欲しいと思うか?」

九条結衣は一瞬固まり、その後表情が暗くなった。「藤堂澄人?」

携帯が彼の車に落ちたの?

九条結衣は眉をひそめ、心の中でイライラが募った。

先ほどの「見知らぬ人」に対する丁寧な口調はすっかり消え、「藤堂澄人、今どこにいるの?携帯を取りに行くわ」

藤堂澄人は電話の向こうで急に冷たくなった声を聞きながら、顔の笑みがさらに大きくなった。

「俺?もちろん、うちにいるさ。家に帰ってきたら携帯を返してやるよ、奥さん」

九条結衣は思わず目を回したが、藤堂澄人は続けて言った。「息子も連れてきて見せてくれよ」

藤堂澄人が息子の話を持ち出した途端、九条結衣の表情はさらに暗くなり、目元には慌てた色も混じっていた。「初は私の息子よ。見せる必要なんてないわ。あなたに何の関係があるの?」

藤堂澄人は九条結衣のこの大きな反応に気づき、目を細めた。頭の中に奇妙な考えが一瞬よぎったが、あまりにも早く消えてしまい、捉えることができなかった。

「そんなケチケチするなよ。俺の妻が浮気して緑の帽子を被せたのに、俺は気にしてないんだぞ。感動しないのか?」

今この瞬間、藤堂澄人が目の前にいなくても、九条結衣は彼の今の表情がどれだけむかつくほど意地悪そうなのか想像できた。

この四年間で一体何があったのか、あんなに冷淡で薄情で、性格も地味だった人がこんなにも意地悪な性格になってしまうなんて。

「それに、彼の父親は死んでしまったんだろう?お前が素直に家に帰ってくれば、俺は自分の息子として育ててやってもいいぞ」

九条結衣は藤堂澄人のこの言葉に激怒し、息子の手を握る力が知らず知らずのうちに強くなっていった。初が思わず痛みで声を上げた。「結衣、痛いよ」