100.背後の人

藤堂澄人には藤堂瞳という妹が一人いて、木村靖子は彼女を救い、そのために子宮を失った。さらに以前、自分を救うために半死半生になったこともあり、藤堂家の人々は皆、木村靖子に深く感謝していた。

特に妹の藤堂瞳は、木村靖子に命を救われた恩があるから、恩返しをしなければならないと常々言っていた。

その後、藤堂家は様々なコネを使って木村靖子に適合する子宮を見つけ移植手術を行い、今では普通の女性と変わらない生活を送れるようになったが、彼女の恩は藤堂家の人々、特に藤堂瞳の心に深く刻まれていた。

彼が九条結衣と結婚した後も、藤堂瞳は何かと彼と木村靖子が会える機会を作り、木村靖子のために何度も九条結衣を困らせることさえあった。

これらのことを彼は知らないわけではなかったが、あえて口を出さなかった。特に九条結衣に関することには、彼女を擁護することは一切なく、そのため次第に九条結衣は木村靖子が彼の本命だと思い込むようになった。

その後数年間、木村靖子は藤堂家への恩を盾に、要求がどんどん大きくなっていったが、それは金銭的なものに留まっていた。彼もそれを気にしなかった。彼女が金を欲しがれば与えればよい、どうせ藤堂家に最も不足していないものは金だった。

しかし、ここ2年ほど、木村靖子は調子に乗り始めた。特に九条結衣が彼のもとを4年間離れている間、彼女の下心が一層露骨になってきた。

さらには九条結衣の前で、意図的に自分と彼との関係を匂わせるようなことまでし始め、それは彼にとって煩わしいものとなっていた。

数年前、木村靖子は彼から多額の金を受け取り、木村の母に会社を設立させ、その後こっそりと彼の名義で営業活動を行っていた。

最初は気付いていても放置していたが、彼の寛容さを見誤ったのか、母娘は最初のこっそりとした行動から、最後には堂々と彼の名を騙って詐欺まがいの行為を働くようになった。

松本裕司に警告を何度かさせたところ、母娘は大人しくなったものの、彼の中での感謝の念は完全に消え去ってしまった。

オフィスに座り、過去のことを思い返し、木村靖子の兄妹への恩を考えると、藤堂澄人の瞳が急に深くなった。「こんなに都合の良い偶然があるものだろうか?」

木村靖子は最初に彼を救い、次に瞳を救った。兄妹の命が偶然にも彼女によって救われたのだ。