131.わざわざ私に言葉を酷くさせるのか?

松本裕司は一瞬固まり、頷いて「はい、藤堂さんは今日退院です」と答えた。

藤堂澄人は腕時計を見て「ふむ」と一言言い、社長椅子から立ち上がり、上着を手に取って出て行った。

松本裕司は慌てて後を追った。有能な秘書として、常に社長の側にいなければならないのだ。

藤堂澄人が藤堂瞳の病室に着いた時、彼女の荷物はすでに片付けられており、木村靖子と話をしているところだった。

藤堂澄人が入ってくるのを見て、藤堂瞳と木村靖子の目が輝いた。

「お兄ちゃん、私を迎えに来てくれたの?」

藤堂澄人は表情を硬くしながら、頷いて「ああ」と答えた。

「やっぱりお兄ちゃんは私のことが一番大好きなんだね。退院の日まで覚えていてくれて」

藤堂瞳は甘えるように藤堂澄人の側に寄って、「お兄ちゃん、実は域が迎えに来てくれるだけで十分だったのに、わざわざ来てくれなくても」

藤堂澄人は少し不自然な表情を見せ、「荷物は全部片付いたのか?」

「うん、域が退院の手続きに行ってるところ」

藤堂瞳はそう言いながら、こっそりと木村靖子にウインクして、お兄ちゃんに話しかけるよう合図した。

藤堂澄人は二人のやり取りに気を留める余裕はなく、時折病室の入り口に目を向けては、一見何気ない様子を装いながらも、心の中では密かな期待を抱いていた。

木村靖子は、もうこれ以上受け身でいてはいけないと悟った。まもなく正式に九条家の一員となることを思うと、少し自信がついてきた。

藤堂澄人の前に進み出て、相変わらず柔らかで弱々しい様子で「澄人さん、私が帰国してから一度も一緒にご飯を食べていないわ。今日は時間ありますか?私が食事に誘わせていただきたいんですけど」

彼女はこれまで藤堂澄人をこんなにも露骨に誘ったことはなかった。小林静香が九条政と離婚し、母がまもなく本当の九条夫人になることで、木村靖子はようやく少しばかりの自信を持てるようになった。

九条家のことを考えれば、藤堂澄人も断れないだろうと思っていた。

しかし藤堂澄人は彼女を一瞥もせず、冷淡な様子で「暇がない」と断った。

木村靖子は顔を青ざめさせた。藤堂澄人がこれほど露骨に断るとは思いもよらず、表情に悔しさを浮かべ、下唇を噛みしめながら、密かに拳を握りしめた。