130.退職を申し出る

誠和建材は九条グループのような大企業と比べるとまだまだですが、この会社は業界でかなりの知名度があり、あと数年もすれば必ず成長し、九条グループを超えることもできるでしょう。

小林静香は続けて言った。「お母さんはもう年だから、のんびりと過ごしたいの。あなたが九条政と木村家の母娘を生かさず殺さずにしておかないことは分かっているわ。だから、この会社はあなたに任せるわ。すべてあなたの思い通りにしていいのよ。」

「お母さん……」

九条結衣は複雑な表情で小林静香を見つめた。小林静香は学者の家系の出身で、その雰囲気は実業家というよりも学者のようだった。周りに漂う穏やかな雰囲気は、時折見せる結衣の冷徹さとは対照的だった。

実際、九条グループを相手にするのはそれほど難しくないとはいえ、所詮痩せ馬より太った駱駝の方が大きいように、九条政と木村靖子の母娘を簡単に失脚させるのは容易ではなかった。

しかし九条結衣は彼らを長く幸せにさせておくつもりはなく、手元に適切な「武器」があるのなら、これ以上ないほど好都合だった。

手元の譲渡書類に目を通した後、しばらくして九条結衣は頷き、小林静香に言った。「分かりました。では遠慮なく頂きます。」

「それでいいのよ!あなたは私の一人娘なんだから、私の物はいずれあなたのものになるわ。今早めに渡した方が私も気が楽だし、これからは好きなことができる。こんなに気楽なことはないわ。」

九条結衣は母親を見つめた。五十歳を少し過ぎたばかりで、若い女性には見られない歳月が磨き上げた美しさと優雅さを持っていた。この穏やかな気品は、娘である自分には一生かかっても及ばないだろうと思った。

誠和産業を引き継いだ九条結衣は、その夜のうちに今後の計画を立て、翌朝早く、第一総合病院の院長室を訪れた。

「辞めるって?」

橋本院長は九条結衣が差し出した辞表を見て驚いた表情を見せた。「どうして突然辞めることになったんだ?何かあったのか?」

「はい、少し私用の用事がありまして。」

九条結衣は自分の私事について多くを語りたくなかった。ただ「これまでの院長の御厚意に感謝しています。今後も必要があれば必ずお手伝いさせていただきますが、今は……辞職させていただかなければなりません。」