そのため、九条政を散々罵倒した後、二人の離婚を認めることにした。
小林静香が九条家を去り、九条結衣も当然九条家に留まる必要がなくなった。
この二人の離婚を最も喜んだのは、木村母娘だった。
「お母さん、父さんが小林静香と離婚して、結衣も九条家を出たわ。これからは九条家は私たちのものよ」
木村靖子は興奮を抑えきれず、九条家のお嬢様として上流社会の様々な場所に出入りする未来を夢見ていた。
そうなれば、彼女は九条家のお嬢様で、誰も彼女のことを私生児とは言わなくなる。藤堂家のあのお婆さまも彼女を見下すことはできなくなるはずだ。
彼女の身分が上がれば、藤堂澄人も必ず彼女の良さに気付くはず。藤堂瞳の助けもあれば、いずれ藤堂家に嫁ぐことができるに違いない。
木村富子も同様に興奮していた。この日をどれほど長く待ち望んでいたことか。表に出られない愛人として、どれだけ多くの白い目で見られてきたことか。ようやく日の目を見ることができる。
母娘は興奮して抱き合い、これからの素晴らしい生活を思い描き始めた。
「結衣、本当にご両親が離婚したの?」
夏川雫は心配そうに九条結衣を見つめながら、小声で尋ねた。
「うん、どうしたの?」
「別に、ただ木村家の不倫相手が得をしたみたいで、あなたたちが可哀想だなって」
それを聞いて、九条結衣は意に介さない様子で笑い出した。「そんなの気にすることないわ。母さんのような人が九条政と青春を無駄にするほうが可哀想よ。木村母娘のことは、しばらく好きにさせておきましょう」
彼女の目的は、母親を九条政と離婚させ、九条家を出るということだけではなかった。
この世の良いことは、誰のものになってもいい。でも木村母娘のものにはさせない。
夏川雫は九条結衣の表情を見て、彼女なりの考えがあることを理解し、それ以上何も言わなかった。
「そうそう、私と藤堂澄人の離婚訴訟はどうなってる?」
九条結衣はコーヒーを一口飲みながら、さも何気なく尋ねた。
「裁判所はまだ調停を望んでいるわ。私たちは何度も拒否の意思を示しているけど、あなたも知ってるでしょう。田中行は普通の弁護士じゃないし、藤堂澄人も普通のクライアントじゃない。裁判所に即座に判決を出させるのは簡単じゃないわ」