「いいだろう、このまま引き延ばしてみろ。私、藤堂澄人の女に誰が手を出せるか、見てやろう」
彼が身を屈めて九条結衣の耳元に近づいた。外から見れば親密な仕草に見えるが、結衣だけが感じ取れた、今の澄人の周りに漂う万年氷山の頂きで凝縮された冷気を。
「渡辺家の次男でも同じだ。私が潰してやる!」
藤堂澄人の言葉は歯を食いしばるように発せられ、殺意も少しも隠そうとしなかった。
九条結衣には分かっていた。澄人の言葉は脅しではなく、本当に殺意を持っているのだと。
冷静な結衣でさえ、この時ばかりは澄人の言葉に驚愕し、拳を強く握りしめながら、平静を装って言った。「藤堂澄人、今は法治社会よ」
乾いた唇を舐めながら、自分の言葉に全く自信が持てないことに気付いた。
耳元で澄人の低い笑い声が響き、温かい吐息が耳を撫でる。結衣は思わず背筋を硬直させた。