「結衣、もう帰るの?食事を済ませてから帰らない?」
九条結衣がこんなに早く帰ろうとするのを見て、藤堂お婆様の顔には隠しきれない失望の色が浮かんだ。
「結構です、お婆様。今度お茶でもご一緒しましょう」
九条結衣は藤堂お婆様に別れを告げ、振り返ることなく藤堂邸を後にした。
二階で、藤堂澄人は部屋の窓際に立ち、九条結衣が意地を張って真っ直ぐな背中で、少しの未練もなく藤堂家の門から消えていく姿を見つめていた。表情は険しく曇っていた。
本来なら、九条結衣を呼び出した時、彼の心にはまだ期待があった。しかし、松本裕司からの一本の電話で、八年前のあの忌まわしい記憶が蘇ってしまった。
だから、九条結衣が目の前に立った時、その記憶が止めどなく彼の頭に押し寄せ、理性を完全に支配してしまった。そして彼女が携帯に男との行為の動画が保存されていると言うのを聞いた時、彼は完全に爆発してしまったのだ!