196.お前って結構下賤だな

「結衣、お前さっき……」

渡辺拓馬は九条結衣の急激な態度の変化を見て、驚きの表情を浮かべた。

九条結衣は笑いながら、目元に垂れた髪をさらりと払いのけ、言った。「清純な演技なんて、誰だってできるでしょ?」

そして、藤堂澄人の意味深な表情を見つめながら、笑って言った。「ごめんなさいね、藤堂社長。あなたの可愛い人の顔、今頃腫れてるでしょうから、早く見に行ってあげたら?」

そう言って立ち去ろうとしたが、藤堂澄人に遮られた。

彼は九条結衣の冷ややかな顔を見つめ、唇の端を上げて言った。「君が恩知らずだってことは前から知ってたけど、さっき俺が助けてやったの、見えなかったのか?」

彼はこの女が演技をしていたことを予想すべきだった。こんな冷酷な女が、本当に九条政の前で弱みを見せるはずがない。なのに彼は馬鹿みたいに同情してしまった。