197.彼女をどこへ連れて行くのか

視線をシャンパングラスに落とし、何気なく一口すすって、今の不自然な様子を隠した。

九条結衣は笑ったが、目の中の冷たさはますます濃くなっていった。「藤堂澄人、あなたは自分が誰だと思っているの？どうして私が要らなくなった時は、大人しく婚約破棄を待たなければならないの？離婚したくない時は、大人しく藤堂澄人の妻でいなければならないの？子供は私の子よ。藤堂澄人、あなたに何の権利があるの！」

何の権利があって私から子供を奪うの！

彼女は問いただすような目で藤堂澄人を見つめ、かすれた声には、限りない悔しさと非難が込められていた。

あの頃、期待に胸を膨らませて結婚を待っていた時、彼は何も言わずに九条家に婚約破棄をしに来た。その時の辛さと悔しさが、今も心臓を締め付け、藤堂澄人への憎しみはますます深まっていった。

九条結衣の赤くなった目から溢れ出る怒りと悔しさを見て、藤堂澄人の心が突然痛んだ。思わず口を開いた。「私は子供を奪うつもりはない！」

「でもあなたはもう奪ったわ！」

九条結衣の声は、制御を失いかけたように少し高くなり、周りの来客たちの視線を集めた。

九条結衣も自分の失態に気づき、表情を引き締め、冷静な目で藤堂澄人を見つめながら言った。「親権を争うつもりなのでしょう？いいわ、待っているわ。」

言い終わると、藤堂澄人を見ることもなく、背を向けて去っていった。

藤堂澄人は彼女の後ろ姿を見つめ、眉をさらに深く寄せた。

今回の誕生日パーティーは成功裏に終わり、来客たちが次々と帰り始めると、九条結衣も九条初を連れて老人に別れを告げた。

老人は九条結衣が現在C市で誠和グループの会長を務めていることを知っていたので、無理に引き止めなかった。

小林家一行が空港に向かおうとした時、黒いベントレーが、ゆっくりと彼らの車の前に停まった。

九条結衣はその車を認め、思わず眉をひそめた。

「澄人？」

九条結衣の隣に座っていた小林静香は前の車を見ながら、横を向いて尋ねた。

九条結衣は頷き、その時、窓をノックする音がした。藤堂澄人の運転手が恭しく外に立っていた。

「奥様、社長がお呼びです。」

九条結衣は黙って少し迷った後、子供を小林静香に預け、ドアを開けて車を降りた。