198.なぜ後ろめたいのか

彼女は匿名のメッセージを受け取った。藤堂澄人がここで女性とこっそり会っているという内容だった。

ここは都心部ではなく、人々が入り混じった地域だ。藤堂澄人のような身分の人が、なぜここで誰かと会うだろうか？

最初、九条結衣はそのメッセージを信じなかった。誰かの悪戯か、藤堂澄人に泥を塗ろうとする意図的な行為だと思った。

彼女は考えることもなく、そのメッセージを削除した。

あの時、彼女の心は藤堂澄人でいっぱいで、あと一年で藤堂澄人と結婚できることを心待ちにしていた。彼への不信感で二人の間の情を壊したくなかった。

しかし、それでもなお、そのメッセージに影響され、その一日中落ち着かなかった。

相手の目的が分からなかった。当時の藤堂グループは全国で重要な地位を占めており、九条家との縁組は錦上花を添えるようなもので、あってもなくてもよかった。

だから、婚約が解消されても藤堂澄人には何の影響もないはずで、メッセージを送った人がそんな意味のないことをするはずがなかった。

藤堂澄人の評判を落として藤堂グループの株価に影響を与えようとするなら、それはさらにありえないことだった。

当時の藤堂澄人は、結婚もしておらず、恋人もいなかった。彼女との婚約も外部には全く知られていなかったので、独身の藤堂澄人が誰と付き合おうと、誰と会おうと堂々とできたはずで、人に知られても藤堂グループには何の影響もなかったはずだ。

九条結衣は一日中考えても、相手がそんなメッセージを送ってきた理由が分からなかった。

しかし、そうであるからこそ、ますます心が乱れていった。

悪魔に取り憑かれたかのように、メッセージに書かれた時間と場所に従って、このホテルにやってきた。

純粋に自分の心を安らかにするためだけだと、九条結衣は自分に言い聞かせた。

あの時、彼女はまだ藤堂澄人を信じていた。でも藤堂澄人に信頼されていないと思われるのが怖くて、ここに来る時は誰にも告げずにこっそりと来た。

このホテルの管理は非常に緩く、彼女が来てからエレベーターに乗り、メッセージに書かれた階に行っても、誰にも止められなかった。

しかし、エレベーターを降りた後で後悔した。婚約者を疑うべきではなかった。自分が一生涯添い遂げたいと思う男性を、どうして疑うことができただろう。