田中行は法曲界では有名な敏腕弁護士で、どんな裁判でも彼が担当すれば、勝敗はほぼ決まったようなものだった。
夏川雫は田中行の裁判の進め方を理解していたため、事前に準備をしており、開廷当初は互角の戦いを繰り広げていた。
九条結衣は法廷に入ってから終始落ち着いた様子で、自信に満ちているように見えたが、彼女自身だけが知っていた。ポケットに入れた手は終始強く握りしめられ、手のひらは冷や汗でびっしょりだった。
夏川雫が田中行と互角に戦っているのを見て、少し安心し、張り詰めていた気持ちも少し和らいだ。
目を上げると、藤堂澄人が彼女の方を見ていた。深い黒瞳は測り知れず、結衣は彼が今何を考えているのか読み取れなかった。
その瞳を見ているだけで、彼女の心は思わず沈み、先ほど和らいだ緊張感が再び高まった。