田中行は法曲界では有名な敏腕弁護士で、どんな裁判でも彼が担当すれば、勝敗はほぼ決まったようなものだった。
夏川雫は田中行の裁判の進め方を理解していたため、事前に準備をしており、開廷当初は互角の戦いを繰り広げていた。
九条結衣は法廷に入ってから終始落ち着いた様子で、自信に満ちているように見えたが、彼女自身だけが知っていた。ポケットに入れた手は終始強く握りしめられ、手のひらは冷や汗でびっしょりだった。
夏川雫が田中行と互角に戦っているのを見て、少し安心し、張り詰めていた気持ちも少し和らいだ。
目を上げると、藤堂澄人が彼女の方を見ていた。深い黒瞳は測り知れず、結衣は彼が今何を考えているのか読み取れなかった。
その瞳を見ているだけで、彼女の心は思わず沈み、先ほど和らいだ緊張感が再び高まった。
藤堂澄人は彼女を見つめ、緊張しているのに平静を装おうとする様子を見て、薄い唇が冷ややかな弧を描いた。
前半が終わり、九条結衣は夏川雫と共に休憩室へ向かった。結衣は焦りながら尋ねた。「勝算はありますか?」
夏川雫は彼女を慰めたかったが、この状況では慰めても意味がなく、正直に答えるしかなかった。「今は田中さんと互角ですが、彼の実力はよく分かっています。彼は今せいぜい七割の力しか使っていません。私は全力を出して、やっと互角に戦えているだけです。」
そう言って、唇を噛んだ。「結衣さん、心の準備をしておいてください。私は...田中さんの相手にはなれません。」
前半戦で田中行が意図的に手加減していたとすれば、後半戦ではもう譲歩することはないだろう。
九条結衣の顔色が少し青ざめ、拳を強く握りしめ、爪が掌を刺す痛みを感じながら、心の苦しみを押し殺して夏川雫に頷いた。「大丈夫です。覚悟はできています。」
夏川雫は頷いて、「水を汲んでくるので、藤堂さんと和解する方法を考えてみては?双方と子供にとってもいい方法を見つけられるかもしれません。」
九条結衣は頷き、夏川雫は出て行く際にドアを閉めた。
夏川雫が休憩室を出て給湯室に向かうと、同じく水を汲みに来ていた田中行と出くわした。
二人の視線が一瞬合い、夏川雫の表情が一気に険しくなった。彼を冷たい目で一瞥してから、コップを持って水を汲みに行った。