203.後悔しなければいい

茶室を出るとき、夏川雫は入り口で田中行を訪ねてきた藤堂澄人とぶつかった。彼女は激しく舌打ちをして、大股で立ち去った。

「これだけ年月が経っても、この短気は直らないな」

田中行は無力に溜息をつき、眉間を揉んだ。

藤堂澄人は田中行と夏川雫の間の事には興味がなく、冷たい表情で前に進み、直接切り出した。「この裁判、勝てるのか?」

田中行は淡々と彼を一瞥し、言った。「勝てるかどうか、君にはわからないのか?」

藤堂澄人は一瞬詰まり、黙り込んだ。

田中行は溜息をつき、真剣な表情で言った。「こんなに大げさに九条結衣と親権を争って、彼女に一生恨まれても構わないのか?」

藤堂澄人の表情が微かに変化した。この瞬間、実は彼自身も、本当に昔の件で九条結衣と親権を争っているのか、それとも昔の件を口実にして子供を奪い取り、そうすることで九条結衣との縁を完全に切れないようにしているのか、わからなくなっていた。

しかし、あの時の出来事、九条結衣が彼に直接認めた時の、心臓を千切られるような痛みは、今でもはっきりと感じることができた。

しばらくして、彼は突然苦笑いを漏らした。「憎まれていても、最初から心がないよりはましだ」

冷酷な男より、心のない男の方が悪い……

九条結衣があの日、彼の腕の中で呟いた言葉を思い出した。今考えると、九条結衣こそにぴったりの言葉だった。

彼女こそ、冷酷すぎて既に心を失った女なのだろう。

眉を下げ、目に宿る苦みと赤みを隠した。

田中行は藤堂澄人と九条結衣の間の縺れを理解していなかった。それは他人が彼と夏川雫の間の事を理解していないのと同じだった。彼は藤堂澄人を一瞥し、ただ溜息をつくだけで、それ以上は諭さず、ただ言った。「後悔しなければいいさ」

後半の開廷では、案の定、夏川雫の予想通り、田中行は一歩一歩追い詰め、夏川雫が全く太刀打ちできないほど攻め立てた。

傍聴席に座る九条結衣の顔色は次第に青ざめていった。心の準備はしていたものの、共に寄り添って生きてきた息子と離れ離れになることを考えると、心臓が生きたまま引き抜かれるような思いだった。

最後は、九条結衣の予想通りの結果となり、裁判官は初の親権を藤堂澄人に与えた。

傍聴席で、九条結衣はその場に崩れ落ちるように座り込み、しばらく動かなかった。まるで全身から力が抜け、魂が抜け出たかのようだった。