275.愛人を持つことに優越感を持つ

藤堂澄人という人物は、彼の後輩であるにもかかわらず、九条政は彼と向き合うたびに、藤堂澄人の前で自分が一段低く感じてしまう。会うたびに、その圧迫感は強くなっていく。

木村富子と木村靖子の母娘は、九条政を引き込んで九条結衣を懲らしめようと思っていたが、九条結衣が藤堂澄人と一緒にいるとは夢にも思わなかった。

特に、藤堂澄人の様子から明らかに不快な感情が漂っているのを感じ取った。

「こんな偶然があるものですね、九条社長?」

藤堂澄人は眉をわずかに動かし、九条政を見つめた。木村家の母娘に関しては、完全に無視していた。

九条政は少し気まずそうな表情を浮かべ、何気なく九条結衣の顔を見た。彼女の軽蔑に満ちた表情を見て、すぐに怒りが込み上げてきた。

藤堂澄人に圧倒された威厳を、九条結衣から取り戻そうと思った。たとえ心の中では自信がなくても。

「澄人君、君は知らないだろうが、結衣のやつは本当に私の心を痛めているんだ。」

最初は気勢を上げていた九条政が、突然子供に失望し悲しむ父親の姿に変わり、少し滑稽に見えた。

九条結衣は疑わしげな目で九条政を見つめ、彼が木村家の母娘の仕返しに来たのだと察したが、どのように仕返しをするつもりなのか興味があった。

先ほど入店した時の態度からして、明らかに周囲の注目を集めようとしていた。まさか不倫をする側もされる側も、それを誇りに思っているとでも言うのか?

藤堂澄人は眉を動かしたが、九条政の言葉には応じなかった。

九条政の顔には、わずかな戸惑いが浮かんでいた。藤堂澄人が何も言わないのを見て、視線を九条結衣に向け、「結衣、お父さんは一体何をすれば君は喜んでくれるんだ?」と言った。

九条政の人となりを知らなければ、九条結衣も彼のこの諭すような態度に騙されていただろう。

まさか九条政がこんなに演技が上手いとは。役者にならないのは本当にもったいない。

「お父さん、何を言っているの?」

九条政は、九条結衣が「お父さん」と呼んだ時、思わず体を震わせた。

彼女が自分を出し抜こうとする時以外は、こんな風に呼ばないのだ。前回彼女がこう呼んだ時の記憶は...あまり良いものではなかった。

九条政は、最初の軽蔑的な態度から一転して無邪気な表情を見せる九条結衣を見て、心の中に警戒心が芽生えた。

藤堂澄人もこの時、彼女の方を見た。