276.一瞬で人としての道を教えてやる

九条政は目を赤くし、心を痛めるような表情で九条結衣を見つめ、悲しみと自責の念に駆られながら、良かれと思って行動した父親として娘の理解を得られない悲しみと心の痛みを感じていた。

九条結衣は、九条政がこれほどまでの演技力を持っているとは知らなかった。木村家の母娘と長く付き合っているうちに、演技力が上達したようだ。

九条結衣は冷ややかに口元を歪め、表情は淡々としていた。九条政と木村富子というこの男女の見事な演技に、まったく興味を示さなかった。

九条政のこの曖昧な言葉は、事情を知らない周りの人々には、父親が母親と離婚後に再婚しようとした際、不埒な娘が父親の再婚相手を繰り返し侮辱したように聞こえた。

父親と再婚相手は娘の行為を何度も許していたのに、娘は感謝するどころか、さらにエスカレートして相手に暴力を振るうまでに至った。これは度を越している。