290.とっくに彼を押し倒していた

藤堂澄人の眉は、わずかに下がった。

九条結衣が手元の仕事を片付け終わったのは夜の10時を過ぎていた。彼女はこめかみを揉みながら立ち上がって洗面所に向かい、そこで初めて同じ部屋にいる藤堂澄人のことを思い出した。

目を上げると、藤堂澄人はソファに黙って座り、腕を頭の下に敷いて、一言も発せず彼女を見つめていた。

九条結衣は眉をひそめて言った。「まだ寝てないの?」

そう聞かれて、藤堂澄人の顔に微かな不満の色が浮かんだ。「やっと私のことを思い出してくれたんですね?」

九条結衣は一瞬言葉を失った。確かに先ほどは仕事に追われすぎて、彼のことを完全に忘れていた。

彼女のそんな黙認するような態度に、藤堂澄人は怒るべきか笑うべきか分からず、思い切って彼女の方へ歩み寄った。

パソコンデスクから彼女を引き離そうと手を伸ばすと、九条結衣は反射的に手を引こうとしたが、藤堂澄人が「一緒に寝るのを待っていたんだ」と言った。