九条結衣は彼と喧嘩したくなかった。なぜ彼がこんなに頑固になったのか分からなかった。
「そんなに力を入れたら、傷口がまた開いてしまいますよ。」
彼女の瞳は相変わらず波一つない静けさを湛え、彼の傷口を見つめながら、優しく注意を促した。
藤堂澄人の口から冷ややかな嘲笑が漏れ、彼は彼女の手を掴んだまま少し力を緩めた。「これは何のつもり?私を一刺し刺しておいて、飴玉でもくれるつもり?」
九条結衣は眉をひそめたが、何も言わなかった。
「そんなの要らないんだよ。」
彼は冷たく唇を歪め、突然ソファから立ち上がって外へ向かった。かすれた声で繰り返し呟いた。「要らない、要らない……」
ドアの前まで来ると、彼は手を伸ばしてドアノブを掴み、握る手に力を込めて、最後にドアを乱暴に閉めて出て行った。