345.重症になったら治らない

渡辺拓馬は九条結衣を見つめ、思わず噴き出して笑った。「藤堂澄人があなたのそんな冷たい態度を知ったら、傷つくでしょうね?」

九条結衣はその言葉を聞いて、思わず眉をひそめ、渡辺拓馬を見上げて言った。「いつからあなた、彼の気持ちをそんなに気にするようになったの?」

渡辺拓馬は一瞬表情を硬くし、次の瞬間、額に手を当てて苦笑いを浮かべ、真面目な表情に戻して言った。「あなたのためじゃなければ、彼なんか死んでもいいんだ。」

「私は彼とはもう離婚したわ。私を巻き込まないで。」

九条結衣は眉をひそめ、不機嫌そうな表情を浮かべた。それが渡辺拓馬に心の内を見透かされたことへの苛立ちなのか、それとも本当に藤堂澄人と関わりたくないからなのかは分からなかった。

「おじいちゃんの様子を見てくるわ。もう話は終わり。」

そう言って立ち去ろうとした時、右後ろから嫌悪感のこもった声が聞こえてきた。「九条結衣?」

九条結衣が振り返ると、藤堂瞳と木村靖子が近くに立っており、敵意のある目で彼女を見つめていた。

以前なら木村靖子は彼女の前で取り繕っていたが、今では自分がすぐに九条家に戻れると思っているのか、九条結衣の前で媚びを売る必要もないと考えているようだった。

彼女は九条結衣を見つめ、その目には九条結衣を食い殺したいほどの憎しみが宿っていた。

九条結衣は彼女たちを完全に無視して、その場を立ち去ろうとした。

しかし藤堂瞳がそう簡単に九条結衣を行かせるはずもなかった。前回藤堂グループで兄に追い出されて以来、彼女は怒りを溜め込んでいた。兄が自分にあんな態度を取ったのは、九条結衣が唆したからだと思い込んでいた。

今では、彼女は九条結衣をこの上なく嫌悪していた。

「そんなに急いで逃げるの?お兄さんの後ろで他の男と浮気してるところを見られて、後ろめたいの?」

九条結衣は藤堂瞳のそんな高慢な態度を見て、まるで知的障害者を見るような目で見た。

「藤堂瞳、あなた心臓だけじゃなく、頭も相当具合が悪いみたいね。早く精神科に行った方がいいわ。手遅れになる前に!」

藤堂瞳は顔色を変え、すぐさま九条結衣の言葉に激昂した。「九条結衣、今なんて言った?」

「耳も不自由みたいね。」

九条結衣は藤堂瞳を冷ややかな目で一瞥し、相手にする気もなく立ち去ろうとした。