彼らは何年も付き合いがあったが、こんなにも一人の人間を恐れるのを見たことがなかった。特に、ただの弁護士に対してだ。
「その弁護士は一体何者なんだ?こんなに怯えさせるなんて。」
山下社長は眉をピクリと動かし、心が不安になり始めた。
「山下さん、私が紹介した時、彼の姓を聞いていなかったのか?」
山下社長は一瞬固まり、何かを思い出したように顔色が一気に青ざめた。「田中?あの田中...田中家の?」
彼の声には明らかな震えが混じっていた。
A市では、金があれば横暴に振る舞える。金と権力があればなおさらだ。
そして藤堂家や田中家のような名家は、もはや単なる金と権力では語れないほどの存在だった。それなのに、彼は運悪く田中家の人間を怒らせてしまった。
田中行の「寒くなってきたね」という言葉を思い出し、心臓の鼓動が更に激しくなった。