338.出会い

「正直に言うと、ここでは権力者をたくさん見てきたけど、藤堂様のような方は初めて見たわ。雑誌で見るより素敵で、その雰囲気といったら、まあ...」

「一晩一緒に過ごせるなら、お金なんていらないわ...」

「あなたなんかには無理よ。ここには彼と無料で寝たがる女性がたくさんいるんだから...」

「...」

周りの人々が噂する藤堂様のことを聞きながら、目の前で愛想笑いを浮かべている松本裕司を見て、九条結衣は先ほどの女性たちが話していた藤堂様が誰なのか、聞くまでもなく分かっていた。

脇に下ろした手が少し強く握りしめられたが、すぐにまた力が抜けた。

何を気にしているのだろう。

もう離婚したのだから、彼が誰と遊ぼうと、自分には関係ないはずなのに。

九条結衣は心の中で自分を強く叱りつけ、フロントのスタッフに目を向けて尋ねた。「すみません、見つかりましたか?」