「また8年前のこと?」
九条結衣は眉をひそめた。藤堂澄人は何度も8年前のことを持ち出してきたし、今度は田中行からも聞かされた。
あの日、澄人が怒り狂って彼女を金雲ホテルに連れて行き、支離滅裂な会話をしたことを思い出すと、当時から何かがおかしいと感じていた。
でも、頭の中は澄人が九条初の親権を奪おうとしていることでいっぱいで、深く考える余裕がなかった。
今、田中行がまた持ち出してきて、結衣はその間に自分の知らないことがあるのではないかと感じた。
「8年前って何のこと?」
彼女は田中行を見つめ、胸の中の違和感を押し殺して尋ねた。
田中行は何か抑えているようで、何度か唇を動かしたが、言いかけては止めた。
「田中さん」
結衣は田中行の言いよどむ様子を見て、いらだたしげに呼びかけた。