361.嘘つき

彼の眼差しは、氷のように冷たく、夏川雫を凍りつかせた。「夏川雫、今度こそ、本当に終わりだ」

彼は背を向けて歩き出し、数歩進んでから立ち止まり、背を向けたまま言った。「安心しろ、母さんのことは、俺が対処する」

田中行の足音が遠ざかっていくのを聞きながら、夏川雫は全身の力が抜けていくのを感じた。静かにベンチに座り込み、ぼんやりと考え込んでしまった。

胃からの出血のせいで、藤堂澄人は安らかに眠れず、少ししか眠れなかった。

目を開けると、無意識のうちに九条結衣の姿を探した。病室の灯りは暗く、暖かい常夜灯の光で、藤堂澄人は病室の様子を確認することができた。

九条結衣は去っていた。

その事実に気づいた瞬間、藤堂澄人の心は急に沈んでいった。見慣れた痛みが、突然彼の心を襲った。

ベッドに寄りかかったまま、長い間黙っていた。突然、自嘲的な笑いを漏らし、かすれた声で言った。「嘘つき」

やっと、あの時九条結衣が家で自分を待っていた時の気持ちが分かった。

自業自得だ!まさに自業自得!

両手で顔を覆い、かすれた声で笑い続けた。笑い声は抑圧的で、笑っているはずなのに、どこか切なく響いた。

しばらくして、その苦しく抑圧的な笑い声はようやく収まった。藤堂澄人は顔から手を離し、ベッドから降りて、まだ隠隱と痛む胃を押さえながら、ゆっくりと給水機のところまで歩いて行き、水を一杯注いだ。

病室のドアが、突然外から開けられた。藤堂澄人は水を注ぐ動作を一瞬止め、次の瞬間、急いでドアの方を見た。

あの求めても得られなかった姿が視界に入った瞬間、藤堂澄人の暗い瞳に光が宿り、笑顔が一瞬で彼の顔に広がった。

手も興奮で震え、熱い水が数滴手の甲に落ちたが、痛みは感じなかった。

九条結衣がドアを開けて入ってきた時、給水機の横に立つ高い背丈の人影が目に入った。その人は喜びに満ちた表情で自分を見つめていた。

まるで夢にまで見た宝物を手に入れたかのように、いつもの落ち着いた表情が、今は抑えきれない笑みに溢れていた。

「戻ってきたんだね」

彼の声は静かで、飲酒の影響で明らかにかすれていたが、それでも言葉に含まれる喜びは隠せなかった。

九条結衣はドア口で足を止め、次の瞬間、病室の電気をつけた。部屋は一瞬で昼間のように明るくなった。