彼女は夏川雫の方を横目で見て、淡く微笑んだ。「私はその時、ぼんやりと彼を見つめていて、心の中で思ったの。どうしてこんなにも綺麗なお兄さんがいるのかって。その顔を見ているだけで、私の悲しみが消えていくくらいに」
「プッ——」
夏川雫は遠慮なく笑い出し、九条結衣の作り笑いの中に潜む悲しみを見て言った。「へぇ、その時からイケメン好きだったんだ」
九条結衣は手を上げて、彼女の腕を強く叩いた。「死にたい?」
夏川雫は九条結衣が藤堂澄人のことを話す時、その口調がとても淡々としていることに気付いた。まるで物語を語っているかのように。
しかし、先ほど九条政のことを話した時の本当に淡々とした様子と比べると、藤堂澄人のことを話す時の声には、微かではあるが波があった。
おそらく結衣自身も気付いていないだろう。