357.泣いた

夏川雫は心を痛めながら彼女の顔の笑顔を見つめ、手を伸ばして彼女の頭を撫でた。「あなたは成功したじゃない。18歳でプリンストンのMBAを取得し、医学部の修士号も取得した。そして何より大切なのは、私と出会えたことよ」

九条結衣は彼女の最後の言葉に笑みを浮かべたが、すぐに何かを思い出したように笑顔が消え、顔に少し物憂げな表情を浮かべた。「そうね、18歳って本当に素晴らしい年齢だったわ」

18歳の時、彼女は喜び勇んで帰国し、彼との婚約を待っていた。しかし待っていたのは、彼からの婚約破棄だった。

夏川雫は九条結衣が突然黙り込むのを見て、彼女の顔に浮かぶ悲しみは強くはなかったものの、見ていて胸が痛んだ。

九条結衣は手を上げて顔を強く拭い、ため息をつきながら言った。「考えてみれば、私たちは婚約はしていたけれど、お互いをよく知らなかった。だから彼が婚約を破棄しに来た時、きっと好きな人がいるんだと思って。その時どんなに婚約を破りたくなかったとしても、口には出せなかった。彼に更に嫌われるのが怖かったから」

彼女の声は次第にかすれ、どこか寂しげな響きを帯びていた。

「それなのに、どうして彼はあなたと結婚することを承諾したの?」

夏川雫は不思議そうに尋ねた。あの豚野郎は嫌な奴だと思っていたが、そこまで無節操な人間ではないと思っていた。なぜ婚約を破棄した後で結衣と結婚することになったのだろう?

九条結衣は何かを思い出したように、先ほどよりも苦い笑みを浮かべた。「婚約破棄の翌年、九条グループが危機に陥ったの」

夏川雫は頷いた。この話は結衣から聞いていた。結衣が藤堂澄人と結婚した後、藤堂グループが九条グループに出資し、危機は自然と過ぎ去った。

すると九条結衣は不気味な笑みを浮かべながら自分を指差して言った。「私がやったの」

夏川雫は一瞬固まり、信じられない様子で目を見開いて九条結衣を見つめた。「あなた、狂ってたの!」

当時の九条グループの危機は、結衣自身が仕組んだものだったなんて!

九条結衣は笑みを浮かべた。「そうね、あの時の私は、まさに狂っていたわ」

彼女は深く息を吸い、極めて落ち着いた口調で当時の出来事を語り始めた。まるで物語を語る部外者のように。