358.藤堂澄人を許せるのか

夏川雫は彼女の涙を見つめ、長い間呆然としていた。これほど長い付き合いの中で、彼女が泣くのを見たことがなかった。これが初めてだった。

どうやら、本当に辛い思いをしているようだ。

「結衣……」

夏川雫は九条結衣の肩を軽く叩き、無言で慰めた。

しばらくして、夏川雫は深いため息をつき、冷笑しながら言った。「こんな計算された策略だったなんて、誰が想像できたでしょうね。」

「藤堂澄人を許すの?」

確かにこの件では、藤堂澄人も被害者だったけれど、状況も分からないまま結衣にあんなことをした彼に同情する気にはなれなかった。

九条結衣は首を振り、少し笑って言った。「許すも許さないもないわ。あの三年間は、結局のところ、私たちお互いの意思だったもの。彼は私に結婚を強制したわけでもないし、彼に優しくすることを強制したわけでもない。全て私が自分で選んだことよ。」

これを聞いて、夏川雫は眉をひそめた。言っていることは間違っていないのに、なぜかとても気になった。

「まさか、まだ彼と一緒になるつもりじゃないでしょうね?」

完全に藤堂澄人の過ちではないにしても、あの三年間の苦しみを、このまま水に流すの?

九条結衣は彼女が不満そうに眉をひそめるのを見て、軽く笑った。「そんなはずないでしょう?許すか許さないかを追及するのではなく、ただ彼との過去にこだわり続ける必要はないと思うの。過去を忘れられないほど、より執着してしまう。過去から抜け出してこそ、私は前に進めるわ。」

夏川雫の表情は、やっと少し和らいだ。

「本当に乗り越えたの?」

夏川雫は真剣な表情で尋ねた。結衣に聞きながら、実は自分自身にも問いかけていた。

「本当にそんなに簡単に乗り越えられるの?」

もし本当に乗り越えていたら、田中行を見るたびに大声で怒鳴ることもないはずだし、結衣が藤堂澄人に対してそうであるように、たとえ毎回冷静に対応できても、簡単に藤堂澄人に腹を立てるということは、完全には乗り越えていないということではないのか。

九条結衣はこの質問に一瞬戸惑い、口を開きかけたものの、「乗り越えた」という言葉をどうしても口に出すことができなかった。

「試してみるしかないわね。」

彼女は夏川雫を見つめながら、最後にそう言った。藤堂澄人への感情を隠すために、夏川雫の前で気軽な振りをすることはしなかった。