松本裕司は藤堂澄人の冷たい表情を見つめ、もう一度尋ねた。「社長、調べてみましょうか?」
藤堂澄人は黙っていた。今朝、九条結衣が九条政から受けた電話のことを思い出し、九条政が私有財産を売却したことは、きっと九条結衣に関係があるのだろうと推測した。彼は彼女のことにあまり干渉したくなかった。
「必要ない」
「分かりました、社長。では失礼します」
「ああ」
松本裕司が去った後、藤堂澄人の病室には彼一人だけが残された。
一人になると、彼は九条結衣のことを考え始めた。九条結衣のことを考えると、自然と結婚していた三年間の日々を思い出してしまう。
あの頃、彼は九条結衣を憎んでいたはずなのに、彼女と向き合うたびに、つい何度も見つめてしまうのを抑えられなかった。
しかし彼女が近づいてくると、まるで蠅を追い払うように彼女を追い払おうとした。いつもそうだった。
彼は思う。あの時の結衣が、自分に追い払われた時の気持ちは、今の自分と同じだったのだろうと。
今、結衣が冷たい目で自分を見るたびに、耐えられないほど胸が痛む。あの頃の結衣は、自分に冷たくされ、期待を裏切られ続けた時、どれほど辛かっただろう。
そのことを考えるたびに、藤堂澄人はあの頃の自分に戻って、思い切り殴りつけてやりたくなった。
彼はあの頃の自分が羨ましかった。結衣にあれほど一途に愛され、慕われていたのだから。
そして、あの頃の自分を憎んでいた。愚かさと臆病さのせいで、自分を心から愛してくれた女性を無情にも傷つけ続けていたのだから。
思い出すたびに、藤堂澄人は心臓を抉られるような、血を流すような痛みを感じた。
一方。
九条結衣は藤堂お婆様と茶楼で別れた後、九条爺さんの言葉に従ってホテルをキャンセルし、九条家に戻った。
九条爺さんの言った後ろ盾は、確かなものだった。
九条家の正門の前に着くと、黒いSUVが二台停まっており、黒いスーツを着てサングラスをかけた屈強な男たちが車の傍に立っていた。彼女を見ると、近づいてきた。
先頭の男が彼女の前に来て、「九条さん、九条爺さんの命令で、あなたを守るために来ました」と言った。
九条結衣は目の前のヤクザのような集団を見て、口角を引きつらせた。
お爺さんは大げさすぎる。