九条結衣は自分の耳を疑い、急いで顔を上げて藤堂澄人を見つめた。澄んだ瞳の奥には、興奮で特別な輝きが宿っていた。
しかし、藤堂澄人が彼女の意図を誤解することを恐れ、もう一度強調して繰り返した。「九条初の親権を私に返してほしいと言ったの」
藤堂澄人は微笑みながら彼女を見つめ、手を伸ばして優しく彼女の頭を撫でながら、同じように繰り返した。「分かったよ。約束する。九条初を君に返すよ」
彼は九条結衣の目に宿る喜びの光が次第に強くなり、瞳からあふれ出るのを見つめながら、薄い唇も上向きに弧を描いた。
次の瞬間、九条結衣の目の中の喜びは少し薄れ、半信半疑の眼差しに変わった。「私をだましているんじゃないでしょうね?」
藤堂澄人は目に笑みを湛えながら、彼女に一歩近づき、深い瞳で静かに彼女を見つめ、頷いた。「ああ、だましているよ」
九条結衣の表情から喜びが一瞬にして消え去った。やはり藤堂澄人という人はそう簡単には話が通じないと思った。
彼が無理やり奪った親権を、そう簡単に返してくれるはずがない。
腰に藤堂澄人の力強い腕が巻き付けられ、彼女が顔を上げて彼を見ると、目には隠しきれない怒りが浮かんでいた。次の瞬間、藤堂澄人の言葉が聞こえた。
「君を喜ばせたくて、息子を返すんだ」
九条結衣の抵抗する動きが突然止まった。彼女が疑いの色を見せる前に、藤堂澄人は彼女のまだ怒りの残る顔を優しく包み込むように手を添え、強調して言った。
「本当だよ。九条初を君に返す」
九条結衣の顔から怒りが消え、新たな喜びに取って代わった。表情にはそれほど表れていなかったが、藤堂澄人は彼女の心の中の喜びを感じ取ることができた。
表情を引き締め、九条結衣は後ろに小さく一歩下がって彼との距離を少し開け、「ありがとう」と言った。
藤堂澄人の目の中の光は、彼女の冷たいお礼の言葉を聞いて少し暗くなったが、表情では目の中の寂しさを巧みに隠し、掠れた声で言った。
「礼には及ばない」
続いて、また気まずい沈黙が流れた。
「私、先に……」
「君、残ってくれない……」
しばらくして、二人はほぼ同時に口を開き、お互いの言葉を聞いて、また止まった。
藤堂澄人の期待に満ちた眼差しは、九条結衣の目に浮かぶ困惑の色を見て、暗くなった。