視線を戻すと、彼は九条結衣の隣の椅子に座ったが、思いがけず遠藤隼人と遠藤晶の親子も向かいの椅子に座った。
VIPルームのソファは4脚の椅子が向かい合わせに置かれ、その間にはティーテーブルが配置されていた。
今や遠藤親子が向かいに座ったことで、まるで4人が同じグループであるかのようだった。
九条結衣は今やこの親子を見るだけで吐き気を催すほどで、彼らが目の前に座ったのを見て、眉をしかめるのを隠そうともしなかった。
遠藤親子は当然、九条結衣の顔に浮かぶ嫌悪感に気付いていたが、気付かないふりをした。
昨夜九条家を出てから、遠藤隼人は実は後悔していた。カナダの事業は全て九条愛一人のものだった。
彼はビジネスのことを理解していなかったし、同時に、九条愛の金目当てで彼女と一緒にいるわけではないことを証明したかった。
だから、九条愛が自分の資産の一部を彼に分けることを一度も言及しなかった時も、彼から積極的に要求することはなかった。
彼にとって、九条愛の彼への愛情を考えれば、彼女は一生彼から離れられないと思っていた。積極的に要求する必要はなく、かえって九条愛の彼に対する印象を変えてしまう可能性があった。
しかし彼は、九条愛がこれほど簡単に離婚を決めるとは思いもよらなかった。離婚後、九条愛の強硬な手段では、彼は一銭も手に入れられないことは確実だった。
九条愛の財産の一部も分けてもらえないどころか、追い出されて住む場所もなくなり、仕事さえ失う可能性があった。
何十年も贅沢な生活を送ってきて、突然30年前の路上で絵を売っていた日々に戻るなんて、そんな苦労に耐えられないだけでなく、そんな身分や地位も捨てられなかった。
今朝カナダに戻る前、まだ九条愛の気持ちを変えさせる方法を考えていたが、思いがけず空港で九条結衣に出会った。
彼はこの義理の姉の一人娘とはあまり親しくなかったが、昨日の老人の態度から見て、この九条家のお嬢様は九条家でかなりの発言力を持っているようだった。
彼女を通じてアプローチすれば、チャンスがあるかもしれない。
そういうわけで、九条結衣の目に浮かぶ拒絶を見ても、厚かましくもその場を離れなかった。
「いとこ、藤堂さん、お二人はどちらへ?」