ガラス窓越しに、九条結衣は藤堂澄人が急いで空港の外へ向かう姿を見た。会社に戻るのを急いでいるのだろう。
朝早くから彼女を空港まで送ってきてくれた。この忙しい人にとっては、珍しいことだった。
九条結衣にもそれは分かっていたが、胸の中がどこか詰まったような気持ちだった。
藤堂澄人の後ろ姿から視線を外し、まだ彼女の膝の上で行ったり来たりしている子猫を撫でながら、心の中で無言のため息をついた。
しばらくして、彼女は猫を撫でる動作を一瞬止め、手の中の九条二郎を見つめながら眉をひそめた。
藤堂澄人は九条二郎を連れて行くのを忘れていた。
彼女は九条二郎を飛行機に乗せることはできないし、かといってここに置いていくこともできなかった。
すぐに携帯を取り出して藤堂澄人に電話をかけた。電話が一度鳴ったところで、VIPルームの入り口から急いだ着信音が聞こえてきた。
思わず振り返ると、藤堂澄人の大きな体が、いつの間にか入り口に現れており、手にはスーツケースを持っていた。
「あなた……」
「一緒に帰る」
藤堂澄人は彼女の前まで来ると、スーツケースを脇に置き、手を伸ばして軽く彼女の頭を撫でた。「一人で帰るのも、九条初のことも心配だから」
それを聞いて、九条結衣は眉をひそめ、断ろうとしたが、藤堂澄人は彼女が断るのを予想していたかのように、彼女の前にしゃがみ込み、少し低い声で言った。
「九条初は僕の息子だ。もう君に返したんだから、会わせてくれないのか?」
彼の目の奥の暗い表情を見て、九条初を無理やり彼女から引き離さなかったことを思い出し、九条結衣は断りの言葉を飲み込んだ。
次の瞬間、彼女は抱いている子猫のことを思い出した。「九条二郎はどうするの?」
ペットは飛行機に乗せられないことが、九条結衣には頭痛の種だった。
「松本裕司に貨物輸送の手続きを頼んでおいた。私たちが着く頃には、向こうに着いているはずだ」
九条結衣は一瞬驚き、先ほど彼が外に出ていったときのことを思い出し、すぐに理解した。
松本裕司がさっき荷物と身分証を持ってきたのだろう。
藤堂澄人は彼女の表情が少し和らいだのを見て、口角を上げて微笑んだ。「九条初は弟ができて喜ぶはずだ」
九条結衣:「……」