ガラス窓越しに、九条結衣は藤堂澄人が急いで空港の外へ向かう姿を見た。会社に戻るのを急いでいるのだろう。
朝早くから彼女を空港まで送ってきてくれた。この忙しい人にとっては、珍しいことだった。
九条結衣にもそれは分かっていたが、胸の中がどこか詰まったような気持ちだった。
藤堂澄人の後ろ姿から視線を外し、まだ彼女の膝の上で行ったり来たりしている子猫を撫でながら、心の中で無言のため息をついた。
しばらくして、彼女は猫を撫でる動作を一瞬止め、手の中の九条二郎を見つめながら眉をひそめた。
藤堂澄人は九条二郎を連れて行くのを忘れていた。
彼女は九条二郎を飛行機に乗せることはできないし、かといってここに置いていくこともできなかった。
すぐに携帯を取り出して藤堂澄人に電話をかけた。電話が一度鳴ったところで、VIPルームの入り口から急いだ着信音が聞こえてきた。