彼は今になって後悔していた。なぜ九条二郎を買って九条結衣にプレゼントしたのだろうか。
まるで自分で恋敵を作ってしまったような気分だった。
九条二郎を見ると、舌を出して九条結衣の顔を舐めながら、満足げな甘えた鳴き声を上げている。それを見ていると、彼は嫉妬で頭に血が上った。
その顔を、自分はまだ舐めたことがないのに!!!
この時の藤堂澄人は、突然「残虐な」考えが浮かんだ。九条二郎を車から投げ捨てたくなった。
車が空港に近づいた頃、九条結衣の携帯が鳴った。小林静香からの電話だった。
「お母さん。」
「……」
「九条初がどうしたの?」
九条結衣の表情が一変し、その言葉を聞いた藤堂澄人も顔色を変え、九条結衣の方を振り向いた。
「わかったわ。もうすぐ空港に着くから、すぐに帰るわ。お母さん、それまで九条初を見ていてくれる?」
電話を切ると、九条結衣の心は乱れ、いつもの落ち着きは消え、眉間にしわを寄せていた。
「九条初がどうしたんだ?」
藤堂澄人は眉をひそめ、心配そうに尋ねた。
「母が言うには、保育園で友達と喧嘩して、帰ってきてから一言も話さないんだって。昨夜から今まで全然話していないの。」
九条結衣は、何か重大なことが起きているに違いないと感じていた。九条初はまだ3歳だが、とても賢く思いやりのある子で、理由もなく友達と喧嘩するような子ではなかった。
こんなに小さな子が昨夜から一言も話さないなんて、九条結衣は考えれば考えるほど不安になった。
藤堂澄人も眉をひそめ、「お母さんは、なぜ友達と喧嘩したのか聞いたのか?」
九条結衣は首を振った。「母も分からないし、先生も分からないって。発見した時には、その子は九条初にひどく殴られていて、九条初は何も話そうとしないんだって。」
藤堂澄人は九条結衣の言葉に含まれる不安を感じ取り、彼女の肩に手を置いて言った。「心配するな。帰ってから九条初に聞いてみよう。」
車は空港の地下駐車場に停まった。九条結衣は時計を見た。飛行機の出発まではまだ1時間以上あったが、もう待てない気持ちだった。
しかし、今から乗れる一番早い便が、これから乗るはずの便だった。急いで帰りたくても、辛抱強く待つしかなかった。