藤堂澄人は九条結衣を抱きかかえて階段を上がり、主寝室とゲストルームの間で、迷わず自分が寝ているゲストルームを選んだ。
九条結衣をそっとベッドに寝かせると、腕の傷口が少し開いたような感覚があった。袖をまくって確認すると、包帯に少し血が滲んでいたが、それほど多くはなかった。
藤堂澄人はそれを気にせず、袖を下ろして九条結衣の横に横たわった。
九条結衣はこの夜、とても心地よく眠れたと感じた。長年感じていた心と体の居場所のない虚しさが、この夜、不思議と満たされていた。
満足げに目を開けると、目の前に大きく映る端正な顔があった。
その顔の主は、愛情に満ちた瞳で彼女を優しく見つめていた。目覚めたばかりの声は、少しかすれていて色気を帯びていた。「目が覚めた?」
九条結衣は一瞬固まり、次の瞬間、完全に目が覚めて、急いでベッドから起き上がった。
「どうしてあなたのベッドにいるの?」
藤堂澄人は彼女の慌てふためいた様子を見て、無奈気に手を広げた。「それは君に聞きたいよ。僕が気持ちよく寝ていたら、真夜中に君が僕のベッドに来たんだけど、何をしに来たの?」
彼は無実そうな表情を浮かべており、九条結衣は半信半疑になってしまった。
藤堂澄人の顔が、ゆっくりと彼女の方に近づいてきた。「昨日、枕を抱えていたのは僕と寝たかったからでしょう?まだ認めないの?」
彼は身を乗り出して、驚いている彼女の頬にキスをし、笑いながら言った。「真夜中にこっそり入ってくるなんて、いたずらっ子だね!」
そう言いながら、ついでに彼女の鼻先を軽くつついた。
九条結衣は完全に呆然としていた。藤堂澄人の突然のキスと、そんな甘やかすような仕草に、さらに混乱した。
「まだ早いし、息子もまだ寝ているから、眠いならもう少し寝ていていいよ。僕は下で朝ごはんを作ってくる。」
藤堂澄人は、まだ呆然としている九条結衣の頭を優しく撫でて、階下へ降りていった。
藤堂澄人が部屋を出て行ってから、九条結衣はようやく我に返った。
昨夜いつ寝てしまったのか、よく思い返してみると、表情が一気に曇った。
昨夜確かにソファーで寝たはずなのに、いつ彼の部屋に来たというの?
「この馬鹿野郎!」
九条結衣は歯を食いしばって罵ったが、すぐに何かを思い出したように表情が止まった。