536.彼がいないと、心が空っぽ

九条初は首を振って、憂鬱そうな表情を浮かべた。「ママ、パパはまたママを怒らせて追い出されちゃったの?」

九条結衣は一瞬驚いたが、すぐに笑顔で説明した。「もちろんそんなことないわ。昨日パパが出張に行くって言ってたの、忘れちゃったの?二、三日したら帰ってくるわよ」

「本当?」

その言葉を聞いて、九条初の目が一気に輝いた。

「もちろん本当よ。ママが嘘をつくわけないでしょう」

九条結衣はそう言いながら、ベッドから起き上がって身支度を始めた。

着替えを済ませ、息子と一緒に階下に降りると、ダイニングテーブルにA4用紙が置かれているのが目に入った。そこには一行の文字が書かれていた——

【朝食は保温ボックスに入れておいたよ。起きたら必ず食べてね。先に行くけど、僕が君を想うように、君も僕のことを想っていてほしい】

藤堂澄人らしい、クールで威厳のある筆跡を見て、九条結衣は思わず苦笑いを浮かべた。

紙を片付けると、キッチンの保温ボックスに向かった。確かに二人分の朝食が用意されていた。一つは彼女用、もう一つは九条初用だった。

朝食をテーブルに運ぶと、九条初は目の前の可愛らしいキッズプレートを見つめた。盛り付けまでアニメのキャラクターを模していて、彼の目はますます輝いていった。

「これ絶対パパが作ったんだ!」

彼は急いで椅子に座り、食器を手に取って満足そうに食べ始めた。

九条結衣の額には思わず黒い線が何本か落ちた。息子が以前、自分の作った朝食を聞いただけで顔色を変えて怯えた様子を思い出し、つい妬ましくなってしまった。

昔は息子がこんなふうに自分を嫌がることなんてなかったのに。

そう考えながら、彼女は食器を手に取り、藤堂澄人が手作りした朝食を力強く口に運び、強く噛みしめた。

藤堂澄人のあの厚かましい奴め、いつも息子の前で取り入ろうとして!ふん!

自分の皿の美味しそうで丁寧に作られた朝食を見下ろしながら、息子の関心を奪われたとは思いつつも、早朝から出張なのに起きて朝食を作ってくれたことを考えると、もう文句は言うまい。

そう思いながら、気づかないうちに皿の朝食を完食していた。

彼女は気づいていなかったが、この朝食を食べ終える間、ずっと目元に優しい笑みを浮かべていた。

小林由香里を解雇したため、九条初を幼稚園に送るのは彼女自身でなければならなくなった。