509.悪事を働いて逃げ出すつもり

藤堂澄人は無邪気な表情で彼女を見つめ、「証拠が見たいんじゃないの?証拠は私の体にあるよ」と言った。

彼の言葉に、九条結衣は先ほどの記憶の中の光景を思い出した。

彼女は藤堂澄人の上に跨って強引にキスをした。その後の記憶は途切れているものの、その状況から考えると、恥ずかしいことをしてしまった可能性が高かった。

そう考えると、九条結衣の瞳が一瞬縮んだ。藤堂澄人が言う「証拠は体にある」という言葉と合わせて考えると、九条結衣は即座にその話題を避けることにした。

藤堂澄人が気付かないうちに、素早く彼の上から降りて、「藤堂澄人、私はあなたの罠にはかからないわ」と言った。

そう言って、階段の方へ歩き出した。

おそらく後ろめたさからか、足取りが少し早くなっていた。

「待て」

背後から藤堂澄人の声が聞こえた。低く、不満げな声色だった。

九条結衣が振り返ると、藤堂澄人はシャツのボタンを外しながら、ゆっくりと彼女の方へ歩いてきていた。

完璧な筋肉質の体が黒いシャツの下に隠れており、今、彼がボタンを外しながら歩く姿は、支配的で野性的な魅力を放ち、一歩一歩九条結衣に近づいてきた。

九条結衣は手すりに置いた手を思わず強く握りしめ、次の瞬間、藤堂澄人は彼女の目の前に立っていた。

シャツのボタンは全て外され、裾はまだズボンの中に入ったままで、この野性的な色気は思わず何度も見てしまいたくなるほどだった。

「悪いことをしておいて、逃げ出すつもりか?」

藤堂澄人は彼女の落ち着かない様子を見下ろしながら、不満げに言った。

九条結衣が反論しようとした時、藤堂澄人は自分の右肩を指さして、「見てみろ」と言った。

藤堂澄人がこれほど確信を持っているのを見て、九条結衣はますます後ろめたくなった。先ほどまで持っていたかすかな期待も、今では完全に消え去っていた。

彼女はその場に立ったまま動かず、ただ頑なに彼と視線を合わせ、互いに譲らなかった。

次の瞬間、藤堂澄人は突然シャツを下に引っ張り、右肩を露わにした。その姿は息が詰まるほど色気があった。

九条結衣:「……」

「見ろ!」

藤堂澄人は自分の肩にある深く刻まれた歯形を指さした。傷の深さから見ると、彼を噛んだ人は、ほぼ全力で噛みついたようだった。