523.凶暴な藤堂さん

藤堂澄人は冷たい目を細め、笑みは目に届かず、そんな冷ややかに口角を上げた様子は、特に不気味に見えた。

「愛人？」

その言葉を耳にした瞬間、彼の胸の内に湧き上がった怒りは、目の前のこの連中を灰にできるほどだった。

「俺、藤堂澄人が正式に娶った妻を、お前らみたいな下劣な連中の目には、ただの愛人としか映らないのか？」

彼は笑った。こんな下劣なチンピラと言葉を費やす価値もないが、この連中が自分の妻を愛人扱いしたことは、絶対に許せなかった。

「暴露したければ好きにしろ。だがその前に、このガキが俺の妻を傷つけたことは、しっかり覚えておく」

藤堂澄人は九条結衣の手を引いて立ち去ろうとしたが、連中が彼らを行かせるはずもなく、数人が一列に並んで藤堂澄人の前に立ちはだかった。

彼らはこの女性が藤堂澄人の妻だとは思いもよらず、一瞬驚きを覚えた。

こんな大物の結婚が、ネット上で一切話題にならないなんて、金持ちがこんなに控えめなものなのか？

不思議に思いつつも、彼らの関心は今そこにはなく、藤堂澄人から大金を巻き上げられると考えると、興奮を抑えられなかった。

「藤堂さん、金があるからって偉そうにするな。お前の女が俺の息子を傷つけたんだぞ、このまま帰れると思ってるのか？」

「帰る？」

藤堂澄人は口角を上げ、目の中の冷気はさらに迫力を増した。「問題がまだ解決していないのに、帰れるわけがないだろう」

藤堂澄人のその言葉を聞いて、連中の目に、かすかな興奮の色が走った。

やはり金持ちは面子を失うのが怖いのだ。藤堂澄人も同じだ。

「藤堂社長がそうおっしゃるなら、我々も事を大きくしたくはありません。ちょっとした慰謝料をいただければ、子供を病院に連れて行けますし、もちろん、藤堂さんのお時間も取らせたくありません」

藤堂澄人は、横で涙と鼻水を顔中に塗りたくっている悪ガキを一瞥したが、その目に温もりは微塵もなかった。

「社長、何かありましたか？」

遠くで待機していた運転手は、こちらの様子に気づき、すぐに駆けつけた。

運転手は退役特殊部隊員で、腕っ節が強く、藤堂澄人が彼一人を連れて来るだけで、警備会社から派遣される数十人の警備員に匹敵した。

藤堂澄人はこの連中と無駄話をする気はなく、直接運転手に命じた。「こいつらを取り押さえろ。一人も逃がすな」